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2015.10.14 COFFEE PEOPLE ~ vol.6 純名里沙 ~

〜自分をさらけ出さなければ感動は得られない〜

 

毎月、各界のゲストとコーヒーを入り口に様々なトークを繰り広げていくCOFFEE PEOPLE。第六回目は、ボーカリスト・女優の純名里沙さんが登場です。宝塚トップの娘役という輝かしい経歴を持ち、NHK朝の連続テレビ小説や数々のドラマで全国区の知名度となったキャリアの初期から、10月21日に発売となる約8年ぶりのニューアルバムについてまで、大いにお話しいただきました。

(聞き手:鳥羽伸博(TORIBA COFFEE代表)。写真:荒井俊哉。構成:内田正樹)

 

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——僕はあまりテレビを観ないし、物事を続けられるタイプでもないんです。でも中学生の頃、「ぴあの」(※1994年に放送された純名さんが主演したNHK朝の連続テレビ小説)は観ていたんです。いまだに朝の連続ドラマで続けて観られたのはあれだけでして。純名さんにお会いしたかった理由はまずそれがありまして。

「ありがとうございます。10月21日に、8年ぶりのアルバム『Silent Love ~あなたを想う12の歌~』をギタリストの笹子重治さんとリリースするのですが、この発売日に、NHK大阪放送局の90年記念となる『大阪発・朝ドラコンサート』で『ぴあの』を歌わせていただくんです。あのドラマで全国の皆さんに顔と名前を知っていただけたおかげで、いまでも鳥羽さんのような方もいれば、CDを持ってきてサインを求めて下さる方もいらっしゃいます。本当に朝ドラに出させていただいてよかった(笑)」

——純名さんは宝塚歌劇団の出身で、最近は音楽活動に力を注がれていますね。いま歌う時のモチベーションやポリシーは、宝塚の頃と比べてどうですか?

「宝塚についてはファンになり、大好きで入団したのですが、私自身もそこまで詳しくなかったんです。入団してから初めて『こういう感じなのか』と知りました(笑)。私は宝塚に入る前からミュージカルが大好きでしたので、まずアマチュアのミュージカル劇団に入っていたんです」

——ちなみに純名さんのルーツというと?

「『ウエストサイド・ストーリー』ですね。歌も踊りも表現することが大好きでした。宝塚に入ってからも歌で抜擢していただいて、朝の連続テレビ小説にも主演させていただき、主題歌まで歌わせてもらえました。でも、急に自分の芸名だけが大きくなってしまい、抱えきれない大きなポジションも頂いたりして、嬉しい反面、すごく不安でした。昔から、物事が上手く行きすぎていると、不安になる性分で……。過保護にされるとそこから抜け出したくなってしまったり……」

——上手くいっているのに壊したくなる。そこは自分もちょっと共感します(笑)。

「ホント、そういう傾向はありますね(笑)。女優のお仕事をしていくなかでも歌への強い想いはずっとあったんですが、ひと頃はドラマのお仕事が多かったので、なかなか機会に恵まれませんでした。でも2011年に起きた3.11の震災を機に、熱い人間だったはずの自分から、一時は情熱というものがまったく消え失せてしまったんです。本当にびっくりして、一年間くらいはアロマテラピーの資格を取ったりマクロビオティックの学校に通ったりしながら、ボーッと暮らしていました」

——それがブランクの一端でもあったのですね。

「はい。でもある時、『明日何があっても悔いのないように生きたい』と思い立ち、あらためて歌いたいと思いました。でもバンドがあるわけじゃないし、一緒に音楽を作ってきたパートナーもいなかったので、まずは自分の好きな曲のCDを並べてみたんです。そうしたらそのクレジットの端々に、今回の『Silent Love』を一緒に創った“笹子重治”さんの名前があったんです。それで笹子さんのライブに出かけて『オーディションして下さい!』と直談判しました(笑)」

——純名さんは歌を歌うという行為よりも、表現するという行動そのものに重きを置いておられるという印象を受けますね。

「そうかもしれないですね。“作る人”というよりは“表現する人”なのかもしれません。かつての私は主に大劇場で歌っていました。大体2000人くらいのキャパシティだと、スポットライトを浴びちゃうとお客さんの顔も見えない。でも最近は3、40人くらいのお客さんの前でも歌います。きっかけは笹子さんに言われた『歌手はどこでも歌えてこそ歌手』という言葉でした。しかも会場がカフェとかだと照明の調整もできない。ステージからお客さん全員の顔が見える。カッコもつけられないし、丸裸です。演技は役が憑依する瞬間があって、歌でも時にはあるんですが、やっぱり自分そのものをさらけ出さないと、お客さんは決して感動してくれないんですよ」

——深いですね。勉強になります。

「昔からのファンの方の中には『そんな小さな場所で歌わないで』と思われる方もいらっしゃるようです。でも小さな会場での経験はすごく勉強になるんです。もっとも、ライブの当日は昂ぶってしまい、お酒を呑まないと眠れませんけどね(笑)」

 

〜二度目のファーストアルバム〜

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——小規模な会場でのライブにおける具体的なエピソードは?

「たとえば京都で、カウンターに座ってずっとしかめっ面をしながら、私の歌を聴いている人がいました。2曲目も3曲目もずっと拍手ひとつして下さらない。自分の中では結構辛くて(笑)、4曲目に賭けたんですけどダメだった。でも後で聴いたら、その方はしかめっ面でも内心とても楽しんでいらしたそうです。人の表現ってそれぞれで、しかめっ面でも楽しいとか美味しいと思っていらっしゃる方だっている。ドラマをやっていると表情が全てだから、表情で相手を読んでしまいがちになる。でも音楽ではそれが全然当てはまらない。それをここ三年ほどで学びました。できる限りお客さんを巻き込みたい。自分だけ悦に入るのは良くないですもんね。絶対に楽しんで頂きたいと思いますし、お客さんがどう感じているのか、それが全てだと思っています」

——純名さんは根っからのエンターテイナー気質なのですね。

「単に“楽しいほう”が好きなだけです。映画も、暗いだけの話は苦手(笑)。フランス映画みたいにどこまでも堕ちて終わり、みたいなのは辛くなってしまいますね。何らかの救いがなくちゃ。ライブに来て下さるお客様には、前もってチケット代金を払って見に来て下さっているわけですから、それ以上のものを持って帰ってもらいたいと思うんです」

——今回のアルバムでは主に「Amapola」や「星影の小径」といったスタンダードを歌われています。震災以降、自分の好きな音楽を手繰り寄せていく過程で、何らかの形で自分を形成してきたスタンダードミュージックとの向き合い方については何か変わりますか?

「より深く向き合うようになりました。何でこの歌詞なのか、とか。今回歌ったなかには1920〜50年代の曲も多いんですが、歌っていることは決して現代と変わらない。つまりどの時代の人も皆、同じように悩んで生きてきたんでしょうね。あとはより歌と“寄り添う”ようになったと思います。どれだけ声を出せるか、よりも、もっと内面にフォーカスしている気がします」

——歌い方も、クラシックを歌った8年前の前作と比べて……。

「変わりました。でも今でもクラシックの歌も好きで歌っていますが、何でも、どこでも歌える人にもなりたいですね。ハードロックだけは無理だと思いますが(笑)」

——1曲だけオリジナル曲(『candle』)が入っています。

「これは笹子さんと初めて一緒に作った曲なので、大切にしようと思って入れました」

——アルバムの選曲についてはどのように決めていきましたか?

「私と笹子さんがライブで演奏したなかから、出来の良い曲をピックアップした感じです。何より重要視したのは、笹子さんと私の歌が生み出す“空気感”でした。笹子さんのギターって、すごく気持ちがいいんですよ」

——つまりこのデュオの現在におけるベストということですね。

「そうです!」

——そしてミックスはオノ・セイゲンさんが手掛けています。ギターものやデュオもののアルバムって、ガット(弦)のエッジをもっと立たせるミックスもあると思うんですけが、この優しいミックスもお二人の空気感を表現されているように感じられました。

「まさにそのような方向で考えて下さったのだと思います。セイゲンさんも私の想いを汲んで下さって、面白がって付き合って下さいました。巨匠と言われる方が自分と同じ目線で一緒に作品を作って下さったのは、本当に有り難いことでした。そういう意味では、もう一度ファーストアルバムをリリースするような気持ちですね」

 

〜自己の表現にポリシーを持つ〜

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——純名さん、コーヒーは飲まれますか?

「好きですよ。昔はコーヒーばかり飲んでいましたね。最近はそこに紅茶も加わりました。いつも思うんですが、ハワイとかニューヨークとか、アメリカに行くと美味しいコーヒーがあって、『何でこんなに香りが違うんだろう?』と思いながら買って帰りますね」

——ちなみにそれは日本で飲んでも美味しいですか?

「はい。向こうで売られているものは濃いというか、フレーバーがぎゅっと詰まっている感じがします。日本のコーヒーはあっさりしている気がします」

——それはあっさりと淹れる場合が多いせいかもしれない。海外におけるコーヒーを飲む行為は気分の切り替えやブーストというイメージが多いんですが、日本ではお茶を飲むようにリラックスを求める人が多いんですよ。

「そう言われると、私は外人寄りなのかも。スパイス替わりにコーヒーを飲むタイプですね。濃くて、甘みのあるコーヒーが好きです。TORIBA COFFEEのコーヒーはドリップパックのセットで全種類いただきましたが、私はハワイコナブレンドが好きでした。砂糖という意味ではなくて、コーヒーそのものにコクや甘みがある方が好きみたいです」

——なるほど。

「でも珍しいんじゃないですか? 社長さん自らこうした対談というか、インタビューのような企画を定期的にやられるというのは」

——コーヒーも、音楽のように表現したいものがあるものですから。

「あ、何かそれっていいですね!」

——コーヒーというのは受け取る側に左右される部分がすごく大きい。それこそブーストの方もいればリラックスの方もいて。たとえば別れ話をしている時に飲む喫茶店のコーヒーって絶対に美味しくないじゃないですか。

「コーヒー飲みながら別れ話したことないな(笑)。でもきっと美味しくないでしょうね(笑)」

——ですよね。あとは会社で先輩や上司に怒られている時に出されるコーヒーだって、まず美味しくない。つまり自分たちで提案できる範囲をある程度は理解しながら、その上でコーヒーを暮らしのなかで最大限に活かしてもらえるような提案をTORIBA COFFEEは考えていきたいんです。うちには主に6種類のコーヒーしかない。でも多い店だと20種類とかあるんですよね。

「でもそんなにあっても分からないですよね」

——分からないし、果物屋の店先だって、お客さんの数に対して過剰にフルーツを並べても、結局ダメにしちゃいますよね。コーヒーは生鮮食品でもあるので、種類を狭めて、その分一つ一つに対する考え方を自分たちなりにしっかりと持ってやっていきたい。それでも、表現の受け止め方とうのは人それぞれですからね。

「そう思います。音楽も同じですから」

——僕たちが「苦い」と思っていても、飲む人によっては「苦くない」と思うわけで。だから僕は表現者の方々に対しても、自分の表現をどう伝えようとしていて、それが実際にどうお客さんへと伝わっているかということにすごく興味があるんです。それをこの連載を通して学ばせてもらえたらと思っています。

「自分が伝えたいという意思を大事にする。それは私もここ数年、まさに強く意識しています。今回のアルバムのジャケット写真は、スタッフィングも使用カットも全て自分で決めるところから始めました。だからクレジットは“All Produced by純名理沙&笹子重治”になっているんですけど、私が3年前に笹子さんのドアを叩いたことも、僭越ですがある意味セルフプロデュースだったと思うんです」

——究極の自己表現ですね。

「そうです。笹子さんに飛び込んだ。音楽をご一緒させて頂いた。それを良いと思って下さったレーベルの方が居て下さった。本当に感謝しています。自分にとって宝物だし、どこに出してもいいと納得できる作品となりました。否定的な人もいるかもしれないけれど、自分の中で『どうだ!』と思えるものができたとは自負しているので本望です」

——今後も音楽中心の活動となりそうですか?

「今はそのつもりです。このデュオをゆっくり、時間をかけて成熟させていけたらいいですね」

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(プロフィール)

1971年大阪府生まれ。1990年、宝塚歌劇団に首席で入団。初舞台でエトワールという異例の抜擢を受け、96年の退団まで活躍。在団中に主演したNHK朝の連続テレビ小説「ぴあの」が大ヒットした。その後も舞台、映画、テレビ、CM、音楽と幅広い活躍を続ける。10月21日、CHORO CLUBの笹子重治とのデュオでスタンダードを中心に歌った約8年ぶりのニューアルバム『Silent Love 〜あなたを想う12の歌〜』(ビクター)をリリースする。

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