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2015.11.18 COFFEE PEOPLE ~ vol.7 加賀美 健 ~

〜美術の教育を受けなかったのは、かえってよかった〜

 

毎月、各界のゲストとコーヒーを入り口に様々なトークを繰り広げていくCOFFEE PEOPLE。第七回目は、現代美術アーティストの加賀美 健さんが登場です。

様々な手法によるアート表現、Instagramを使ったデイリーな作品投稿、アパレルブランドとのコラボレーション、そして自身の作品や様々なアイテムを扱うショップを経営するなど、一言では括ることのできない魅力にTORIBA COFFEE代表の鳥羽伸博が迫ります。

……そして実は今回の対談、二人と親交の深い“ジャイアン”こと、スタイリストの長瀬哲朗さんを交えた三人の鼎談の予定だったのですが、長瀬さんが体調不良でまさかの欠席。そこで次回は後日合流した長瀬さんを交えてお届けします。

(聞き手:鳥羽伸博(TORIBA COFFEE代表)。写真:荒井俊哉。構成:内田正樹)

 

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——そもそも加賀美さんって、最初はスタイリストの馬場圭介さんの元でアシスタントを務めていたんですよね?

「はい。19歳の学生の頃から6年くらいアシスタントをしていました。当時は素人をモデルに使うのが流行りだったこともあり、バイトみたいにモデルの仕事もしていました。実家から、電車で都心の馬場さんの事務所や仕事場に通っていました。馬場さんって夕方くらいからもう飲みに行っちゃうから、仕事終わらせるのが早いんですよ(笑)」

——アシスタント時代は苦労しましたか?

「それがそういう思い出はほとんどなくて、馬場さんは、『最初は高い給料をあげられないからな』って言いながら、おこずかいとかくれるんですよ(笑)」

——アシスタントなのに電車があるうちに帰れて、お金にも困らないなんてすごい環境じゃないですか。

「馬場さんに仕事で怒られたこともあまりなかったですね。怒られたことと言えば、食べ方が汚いとか、お茶碗の持ち方とか、そういう人としての基本みたいなことでした。普通はアシスタントについたらだいたい3年くらいで独立するのがセオリーですけど、僕はどんどん頭がアートの方にシフトしてしまったので」

——アシスタント時代に、日々の仕事と並行してアート作品を作ったりはしていましたか?

「少しだけ。でも趣味というか、子供の時から好きで作っていた延長ぐらいでした。(アートの)オタクとまではいかないまでも、アートは昔から好きだったので、いろいろな作品集を買って見たりしていましたし、いろいろな作家が好きですね。馬場さんの仕事からは、ファッション以外の影響も受けているんです。発想力とか、それを思い付くまでの速さとか。身近で見ていてすごいと思いました。そして、とにかく馬場さん自身がカッコよかった。」

——馬場さんのアシスタントを辞めてからは?

「すぐにサンフランシスコへ行きました。友達もいましたし、以前、旅行した時にすごく面白かったので住んでみようと思いました。ディアフーフ(Deerhoof)というバンドのボーカル&ベース(サトミ・マツザキ)が、うちの奥さんの中学生からの友達なんです。そんな繋がりから、彼らのアルバム・ジャケットもやらせてもらいました。サンフランシスコには1年半くらい奥さんと住みました」

——向こうでの生活ぶりは?

「アシスタント時代の貯金を使って、ダウンタウン地区に住んでいました。当時、すでに25歳だったので、歳のせいではないのかもしれないですが、何だか勉強が全然頭に入ってこなくて(笑)。ギャラリーやスリフトショップなど自分の好きなところに日々足を運んでいました」

——じゃあ向こうではアートの勉強というのは……?

「ほとんどしなかった(笑)。でも今の自分を見ると、美術の教育を全く受けていなくてかえって良かったなと思います」

——その当時は90年代ですよね。たしかイギリスもアートで盛り上がっていた頃だったかと。

「そうですね。ちょうど“Sensation”(※)をやっていた辺りだったかな」

——僕がロンドンに留学した時がちょうど““Sensation”だった。あれを見て勉強しなくなりました(笑)。

「あれは面白かったですね。アートはその気になれば100%自己完結で出来てしまう。1年がイコール10年分と言われて、50代でもヤング・アーティストとか言われるような世界なので、そこも面白いと思った覚えがあります。そんな辺りから、アートが(自分に)『向いているかもしれない』と思ったのかもしれませんね」

 

〜結局はセンス次第。アートは何でもアリ〜

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——僕がロンドンに留学していた頃は、自分の周りでアート学校に行っている人が結構多かった。そういう人たちは、かなりの確率でアートというカテゴリーに自分を“ハメ込む”ための作品作りをしている人が多かった気がします。

「学校だとそういう教え方もしますよね」

——たとえば写真なら、一枚を撮って、プリントないしデータが出来上がれば、そこで一応の完結を見ますよね。でもアートはどのタイミングで筆を止めるかが難しいのでは?

「これは性格なのかもしれないですけど、僕は何事もせっかちで早いんです。だから僕の場合、作る行為自体はあまり重要ではないというか。むしろ考えていること自体のほうがもっと重要ですね。子供と遊んでいる時とか、トイレに入ってボーッとしている時に考えていることの方が、手を動かしている時間よりも重要な気がします。あと瞬発力は、重要かな。そこが鈍らないようには気をつけています。常に何かを考えていて、それをアートに落とし込む行為は自然とやっていますね」

——僕は加賀美さんの作品から、ファッションを感じる時があります。古き良き、アートに限りなく近かった頃のファッションというか。

「そこは本当に馬場さんの影響が大きいと思います。身近で見ていて、本当にすごい瞬発力と速度だったですしね」

——最近この対談は“表現”がひとつのテーマとなってきました。僕は日頃、コーヒー屋で、コーヒーで何かを表現したい、またはしなくてはと感じています。だからこそ、この対談を通じて、自分とは違う動きをされている方の表現に対する考え方を知りたいんです。

「そうなんですね」

——加賀美さんの作品にはメッセージが含まれているものが多いじゃないですか。でも一方で、そこで言っていることがどこまで本当というか、本気のメッセージなのかは捉えにくいという印象を受けます。加賀美さんは、自分の表現方法としてベストだから、アートという手段を選んだのですか?

「自分が面白いと思えることが重要なんです。自分で作ったものを見て、自分がヤバいと思うことが重要ですね。海外で展覧会をするときなどは戦略を練ったりはするのですが、最終的には自分が見て面白いと思うのを大切にしています。誰かが見ていまいちだと思ったとしても、自分が見たときにイケてるなと思えることが重要というか。

——ずっと考え続ける思考運動と同じように、発表の速度や瞬発力も大事ですよね。そうすると現在のようなインターネットやSNSが普及している環境というのは、加賀美さんにとっては追い風というか、昔よりもどんどんご自身の性格と時代の歩幅が合ってきているのでは?

「確かにそれはあるかもしれないですね。SNSがなかったら、フットワークもかなり違っていたでしょうし」

——絵も描かれて、Instagramでは伝えたいことを伝えるために娘さんやご自身も登場する。表現方法のソースをたくさん持ちたいという願望はありますか? 

「いや、特にそういう願望は無いですね」

——アートという観点から加賀美さんを見ていると、仮にアートに領域があるとすれば、その中で「こんなこともありなのか?」という感覚を僕は覚えるんです。“Sensation”の時の、あの衝撃に近いものを感じるんです。娘さんの変顔も考え方によってはアートだし(笑)。

「その感想は嬉しいし、そういう考え方はすごく好きですね」

——プロレスはお好きですか?

「好きですよ。ただ昔の、アントニオ猪木とかアンドレ・ザ・ジャイアントの頃しか分からないですけど」

——プロレスが分かる人って、「間」とかさじ加減を分かっている人が多い気がして(笑)。僕がロンドンで仲良くしていたファインアート専攻の友達がいたんですが、彼はめちゃくちゃな人間で、僕に手伝いをさせてデザイン系のかっこいい椅子にパンツを穿かせはじめて(笑)。で、それを「チェア・ファック」と呼んで写真を撮ったらDazed & Confused誌に載ってしまって(笑)。そういう人が身近にいたので、めちゃくちゃな人を見ても動じないのかもしれない。

「画とか彫刻ばかりをアートだと思う人が多い気がするのですが、ただそれはやる人のセンス次第で、何でもアリと言えばアリですよね。ファッションもセンスですが、アートもセンスですから。やはり海外の作家を見ていても、センスのいい人の作品はカッコいいんですよ。じゃあそのセンスをどう磨くかとなると、結局そこは学校に行っても教われるもんじゃないんですよね」

 

〜よく分からない存在のまま一生を終えたい〜

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——加賀美さんはストレンジ・ストアという、お店を東京・代官山で開かれていますね。何故お店をやろうと思ったんですか?

「思いつきです(笑)。元々古着が好きで、本業とは別に自身の店を持ったら面白いと思い、不動産屋に連絡したら2軒目で今の物件を紹介されて。原状回復どころか綺麗にしないといけないようなボロボロの物件だったんですが、大家さんが『何をやってもよい』みたいな勢いだったので、本当に好きにやっています。さっき話したように、表現の一つとしてお店があるような感じですかね」

——日中は基本的にお店にいるわけですよね?

「そうですね、開けたいときに開ける感じで、僕がいない時は休み(笑)。気が付いたら6年目ですね。最初は真面目に12時くらいに開けていたんだけど、全くお客さんが来ないから、最近は15時オープンでちょうどいいかなと(笑)」

——お店ではご自身の作品を売られていますよね。TORIBA COFFEEは2階で豆を焙煎して、それを1階の店舗で売っています。みんな「すごいね」とか言って下さるんですが、製造業だったら、ある意味、当たり前といえば当たり前だと思うんです。僕自身、コーヒーで表現するという考えがあるからこそ、すでに注がれた只の飲み物という完成系ではなく、豆の段階で売るという状態を選択しただけなので。だってお寿司屋さんが3軒隣で作った握りを持ってきたらおかしいじゃないですか? 目の前で作るからいいのであって。

「そうですよね。僕のお店は、最初はかなり実験的でした。今は、主に買い付けた古着とアート作品とは別のオリジナル商品を販売しています。最近では、様々な言葉をステッカーに描いて商品を売っています。僕は、D.F.Wという海外のグラフィティークルーの一員でもあるのですが、外国人が英語で何かを描くのはかっこいいと思うのですが、日本人が英語で描くのはどうなのかな?と思ったのがステッカーに日本語で描くことの始まりでした。そのうちに『欲しい』と言う人が増えてきて。じゃあ100円で売ろうかなと(笑)。メッセージ性なんて全く無くて、ただのひらめきです。あ、でも手描きはポイントかもしれない)

————日本語だから日本人しか笑えないあたりもいいんですよね。僕の周りで反響があったのは“ビデ夫人”でしたね(笑)。ひらめいて書いてみたけどやっぱり違った場合もありました?

「ありますね。この前は“ハンカチ王子”と書いてみたら、やっぱり“ハンケチ王子”のほうがいいなって。まあ直すといってもそんな程度ですけど(笑)」

——最近のご自身の中での一番のヒットは?

「逆に好きだったものはありますか?」

——“ビデ夫人”とか。(一同爆笑)

 

——何かひとつの手法をメインにしようという気持ちはありますか?

「いや、最近は立体が多いんですけど、パフォーマンスもやりますし、表現できるものは何でも。(※取材時の)来月の中旬に、ロンドンで“フリーズ・アート・フェア”というのがあるんですが、そのパフォーマンス部門に選ばれて行ってきます。僕が6年ほど前からやっているパフォーマンスで、目の前にいる人の似顔絵ではなく、即興で、男性は、チン○を女性はオッ○イを想像で描きます。日本でやるとみんなビックリしたり恥ずかしがっちゃって。見せてくれと頼んでいるわけじゃないのに(笑)」

——アートの世界ってグループや流派に所属していたり、他のアーティストと共存するパターンが多いじゃないですか。

「スターダムに行く手っ取り早さとしてはアリなんでしょうけど、僕はどこにも当てはまらないし、誰かとつるんで行こうという気もなくて。最終的には、何をやっているのか、よく分からないまま死にたいんです。カテゴライズされると分かった気になられちゃうでしょ? それよりも『加賀美は何をやりたいのか結局分からなかったな。まあ面白かったけど』という感じが理想ですね」

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(プロフィール)

1974年東京生まれ。現代美術アーティスト。国内外を問わず多くの美術展に参加。ドローイング、彫刻などニューメディアを使った作品を多く手がけている。PEZやBarry McGeeの所属するD.F.W.という海外のグラフィティークルーの一員でもある。主な展覧会に「加賀美健 Bronze works 2013-2014」 (2014年 MISAKO & ROSEN、東京)、「スコット・リーダー 加賀美健 The Future is Stupid」(2013年 ザ・グリーン・ギャラリー、ミルウォーキー)、「アートがあれば2」(2013年東京オペラシティーアートギャラリー、東京)など。アパレルブランドとのコラボレーションも多数。東京・代官山にて自身が手掛けるセレクトショップ「ストレンジ・ストア」にて、Tシャツなどのオリジナルアイテムを発表・販売している。

Web http://kenkagamiart.blogspot.jp/?m=0

Instagram kenkagami

※Sensation……1997年9月から12月にかけてロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・アーツで開催されたアート展“Sensation: Young British Artists from the Saatchi Collection”のこと。イギリスの若手アーティスト42人、作品110点によるグループ展。出品作家の多くはYBAs(Young British Artists)と呼ばれた若手アーティストで、現在は世界的なアーティストであるダミアン・ハーストやジェイク&ディノス・チャップマンに、トレイシー・エミン、サラ・ルーカス、ゲイリー・ヒューム、マーカス・ハーヴェイ、クリス・オフィーリらが含まれていた。同展はその後ベルリン現代美術館やニューヨークのブルックリン美術館を巡回した。

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