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2016.02.05 COFFEE PEOPLE ~ vol.9 大沢伸一 × 沖野修也 ~ 前編

〜ひとつの形態に捕らわれないメディアとは?〜

 

毎月、各界のゲストとコーヒーを入り口に様々なトークを繰り広げていくCOFFEE PEOPLE。第九回目は、DJ、音楽家、プロデューサーの大沢伸一さんと沖野修也さんとの鼎談でお送りします。

3月には90年代に大沢さんが率いたバンド時代のMondo Grossoのライブ盤『The European Expedition』の発売20周年を記念して、沖野さん監修のもとで若手とレジェンドを混合させたメンバーによるトリビュート・ライブを行うことが発表されています。SNSの現状からメディア論に至るまで、談論風発のトークを、前後編に分けてお届けします。まずは前編をご覧ください。

(聞き手:鳥羽伸博(TORIBA COFFEE代表)。写真:畑中清孝。構成:内田正樹)

 

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——そもそもこの連載は、僕らはコーヒー屋でありながら伝えたいことが多々あって、でも雑誌など既存のメディアでは全てを取り上げてもらうことは難しいので、だったら自分達でひとつメディアを持つべきだと思ったからなんです。で、まず僕は沖野さんのブログがすごく好きなんですよ。

大沢:うん、沖野君のブログはそこら辺の女の子のブログよりもお金もらっていい内容だと思う。

沖野:ありがとうございます(笑)。去年かな、フジロックでやったDJの様子をブログに書いたんですよ。そうしたらそれが過去最高記録で、ひとつの記事に10万アクセスもあったんです。フジロックに行った人が10万人で、もちろんその全員が見ているわけじゃないんですけど、同じ人口が僕のブログにアクセスしていたんです。変な話、僕ひとりで10万人は集められへんけど、記事を書けば10万人がアクセスするという。すごい時代やなと。だからこうしたパーソナルなメディアって、時には既存のメディアよりも刺さる確率が昔よりも高いと思います。

大沢:しかも沖野君は特にヒキが強いんですよ。トラブルの種を自分から拾いに行ってるんちゃうかなと思うくらい、おかしな人が周りに多い(笑)。

沖野:最近もパリで、宿泊先のエレベーターの中に30分閉じ込められていたしね(笑)。DJを終えた朝方に、携帯のメモに入れていた入り口の暗証番号が、携帯の充電切れで分からへん(笑)。でも、4桁だったことは覚えていたから入れてみたんです。そうしたら2回目で開いた。ただそこの家って、入り口だけじゃなくて、エレベーターも違う番号を入れないといけなくて。

——(笑)。

沖野:乗りました。押しました。でも動かない(笑)。で、そこも4桁だったことは覚えていたんで、何通りもの番号を入れ続けたら突然ガシャンと閉まって動き出した。すると僕が帰りたかったのは3階だったんですが、1階で止まって。しょうがないから歩くかと思ったらドアが開かないんですよ。たぶん誤操作でロックされてしまったんですね。これ、誰も来なかったら、俺は閉じ込められてフライトにも乗り遅れるなと。でも最悪乗り遅れたほうがオモロいかな、とかは頭をよぎった(笑)。僕、パスポートも5回無くしていますから。3回は出てきましたけど。たぶん僕の潜在意識が「パスポート、無くしたほうがおもろいよ」と囁きかけている。

大沢:もう作家にでもなればいいのに(笑)。

——沖野さん、フジロックの時はともかく、ご自身のブログではほとんど音楽の話をしませんよね。それって何かいいなって。僕らもコーヒー屋のメディアだけれど、伝えたいことさえ有意義に伝われば、コーヒーの話題が無くてもいいと思っているんです。

大沢:そもそも音楽家がSNSに自分のイベントやリリースを告知するのが当たり前になったのって、ついここ6、7年の話ですよね。気付いたら「やらないとダメ」みたいな空気になっちゃっていた。でも、僕はこの2、3年で感じているんですが、音楽家が音楽の告知をしても、興味の持たれ方が半分くらいなんですよね。Facebookの「イイね!」の数とかもそう。これはねえ……凹みますよ(笑)。

沖野:そうそう。だって自分が好きな曲のYouTubeのリンクを貼っておいても“2いいね”とかですよ? 平均が“25いいね”くらいで、“2いいね”(笑)。最近だと、GQのアワードで、女の子と撮った写真なんか“300いいね”でしたからね。

大沢:ひとつの理由には、僕らが音楽の告知をするのは当たり前だから。身も蓋もないけれど、当たり前のことには興味が湧かないんでしょうね。

沖野:だから意外性がないと反応してもらえない。

大沢:だからちょっと自分の内面を吐露する感じも加えて告知とかしないと振り向いてさえもらえない(笑)。もう何の仕事してんのかなと。だから鳥羽君の言っていることはよくわかります。メディアとして、コーヒーのこと以外を伝えたい、というのは正しい方向性かもしれない。

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——どうも人々もメディア側も「メディアってものはこういうものだ」と決めつけちゃっている傾向があると思うんです。例えば大沢さんの魅力って、音楽はもちろんだけれど、それ以外のところにもたくさんあることを近い人たちは知っている。でも音楽の大沢さんしか知らない人たちにしてみると、逆に音楽以外のメディアを遮断してしまっている人もいると思うんです。やっぱり本人が発信できることは本人が発信するだろうし、変化は変化で伝えていくべきだし。あらゆる意味で大きなメディアの功罪というのはあると思うんです。雑誌もどんどんつまらなくなっちゃっているし、何よりテンプレートを決めちゃうってことが一番良くないなって。

大沢:僕はいつも言いますけど、国の重要なインフラとかライフライン以外は、一回アノニマスとかに攻撃でもされて全部無くなったほうがいいと思うんですよ。そこから有り難みや正当性も含めて、ネットワークでありメディアの在り方を改めて構築していけばいいと思う。

——よく黒崎(輝男。IDEE創業者)さんがおっしゃっているのは、「お金は価値と価値を結びつけるメディアでしかないのに、みんな何故かこのメディアに捕らわれ過ぎて、良いものを作らない」ということ。つまり、売れるものを勝手に予想して作るような時代になっちゃった。コーヒー屋がコーヒーを売るのは当たり前の行為なのに、なんか知らないけど、メディアがイメージを作り上げたり、先人が作り上げたテンプレートに乗っかってしまう。そうするとあとは値引きするか他を蹴落とすかという、ネガティブな選択しか残らなくなるんですよ。それは違うと思うし。音楽もそうじゃないですか?

大沢:いま洋服屋さんの実店舗って、オンラインに押されちゃってなかなか売れないんですよね。まあオンラインでもそんなに売れていないのかもしれないけど。でも海外の様子を見てみると、お店の中に洋服以外の要素を取り込むことが流行っている。例えば、ロンドンのあるブランドがショップの中にジンに特化したショップを併設しているとかね。コーヒーで何ができるか僕には分からないけど、何ならコーヒーに特化しなくても、例えばコーヒー屋さんでレコードを売っていても買う時は買うし、みたいなことなのかもしれないですよね。

——コーヒー屋なのにコーヒーを売っていない、みたいなことはたしかにやりたいんですよね。

沖野:実は僕、東京の下北沢で、一月に本屋をやるんですよ。要はレコード屋の壁を一つ借りて、ジャズに関連する評論や小説や写真集といった書籍を売るんです。

——それは自分の持ち物を売るんですか?

沖野:そうそう。ちょっとギャラリーっぽくしてね。高価なものはそうそう売れないから、トートバッグやマグカップとかTシャツみたいなノベルティグッズも置くんですが、それをゆくゆくは実店舗にしてみたいんですよね。ちっちゃい本屋で、コーヒーが飲めてジャズがかかっているような。これを人に話したら「沖野さん、それはジャズ喫茶でしょ?」と訊かれたけど、それは違うんです。あくまで本屋なの。本屋だけれど、一つの形態の本屋に縛られなくてもいいんじゃないかというね。

 

〜カテゴライズとサードウェーブ〜

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——ひとつにはカテゴリー分けをしてそこに入れたがるという人間の習性があるのかなと。それもだいたいイケてない人の習性なんですよね。例えば「初期のMONDO GROSSO(※バンドを経て大沢のソロプロジェクトとなる。沖野はかつてマネージャー兼プロデューサーだった)はアシッドジャズなのか?」という議論になっても、当の大沢さんは別に意識していないじゃないですか。でもジャンル分けをしたら、みんなアシッドジャズに入れたがる。

沖野:安心するのかな?

——便利なんでしょうね。あとはストーリーを知りたいのだと思います。何らかのストーリーに乗っかっているものを見たいという心理がはたらいている気がするんですよ。例えば映画「ドリームガールズ」が公開された時に、観る前から「ダイアナ・ロスの話なんでしょ?」って聞かれた。結局、多くの人はそこを先に知りたいんですよね。映画として感動できれば、最早重要じゃないのに。過度なカテゴリー分けは、現代の情報化社会の弊害だと思うのです。新たにリリースされる音楽を聴く前に、その音楽の概要を先に知って「いいらしいよ?」と言っているだけでいいものなのかと。昔はアルバムを予約して、ドキドキしながら買って、針を落として聴くという行為までがワンセットだった。そして聴き終わった後に、自分なりの思いが湧いてきた。でもいまのSNSを見ていても「これからコンサートに行きます」という写真ばかりが上がっている。そういうお客さんを相手にビジネスをやらなきゃいけないと考えると、発想もどんどん狭まっていきますよね。

大沢:もう相手に出来ないお客さんは相手にしなくていいぐらいじゃないとダメなんじゃないですか? 例えばYouTubeが定着して以降、音楽があまりにも簡単に聴けるようになって、僕らも恩恵は受けたけども、結局YouTubeには何でもあるけど何にもない。大海の中から砂金を探すような作業だし、探し出せないものは存在していないのと一緒なんですよ。結局、電脳の時代に生きてはいるけれど、恩恵はさほど受けていない、みたいな。それと間違った情報が広がり過ぎちゃうじゃないですか。そうした事故を防ぐためのオウンメディアでもあると思うんですよ。

 ——もちろん、ウェブのメディアで自分の伝えたいことの全てが伝えられるわけではない。そもそも自分の考えの結果が銀座のTORIBA COFFEEのお店自身だと僕は思っているので。自分の生きていく過程の中で、その瞬間の最高のパフォーマンスはこれだ!というお店をやっていたいんですよね。

沖野:それ、すごくいいと思うよ。

——コーヒーの業界ではサードウェーブというのがすごく流行っていた。元々そうした流れには、僕は絶対に乗らない。しかし、実際は、ブームに乗りたくないだけであって、自分の精神的にはサードウェーブなんですよ。要するに自分たちが〝生業″として何を選ぶかという時に、お金は無いけどこだわれるからとコーヒー屋をやることを選ぶ人がいて、そんな人達は当然ペンキを自分で塗るだろうし、看板や名刺のデザインは妥協せずにかっこよく作るだろうし、コーヒーもせっかくこだわっているんだからいい材料使おうよ、みたいな、小さくてもいいからかっこよくやろうみたいな本質的な熱い想い。そうやって作り上げてきたものが本来のサードウェーブなのに、気づいたら日本の大企業が商材としてチェーン店化を始めていた。

大沢:足るを知るというかね。僕ら、業種は違いますけど、そういう意味では、ものすごくたくさんの人に音楽を買ってもらわないとやっていけないないという、20世紀型の仕組みは考え直さないとね。変な話、資本主義の権化みたいなものに支配されるような時代ですから。

——ある意味ではコンビニなんかまさにそうですよね。別にコンビニなんかなくても生きていけるのに、なんかコンビニに行かないといけない感じになって、寄ると何か買わなきゃならない感じがあってね。僕は自分で考えたいし、自分で選びたい。

大沢:言っていることはよくわかりますよ。僕ら音楽の業界的にいうと、やっぱりこの10年は、特に日本のシーンはロストジェネレーションだと思っていて、日本人が日本の中で生み出す音楽のクオリティが圧倒的に低かった10年だったと思う。その理由のひとつは、クオリティの高いもの、意識の高いものにお金を出して買うという文化がどんどんなくなっていること。これなら売れる!みたいな逆算の元に製品を作る考え方が、芸術にも当てはめられ過ぎたんだと思う。

沖野:ある時点から変わったと思うんですよ。僕らが京都で音楽を始めた頃って、俺らがやっていることを面白がってどんどんと人が集まった。しかしいつの頃からか、売れている人が偉いとか、お金を持っている人が偉いというのが、世の傾向であり風潮だと感じられるようになったんですよね。

(後編に続く)

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(プロフィール)

大沢伸一……1967年滋賀県生まれ。音楽家、DJ、プロデューサー、選曲家。リミックスワークを含むプロデュースで、BOYS NOIZE、BENNY BENASSI、ALEXGOHER、安室奈美恵、JUJU、山下智久などを手掛けるほか、広告音楽、空間音楽やサウンドトラックの制作、アナログレコードにフォーカスしたミュージックバーをプロデュースするなど幅広く活躍している。

 

沖野修也……1967年京都府生まれ。クリエイティヴ・ディレクター/DJ/選曲家/執筆家/世界唯一の選曲評論家/Tokyo Crossover/Jazz Festival発起人。開店以来20年で70万人の動員を誇る渋谷The Roomのプロデューサーである。音楽で空間の価値を変える“サウンド・ブランディング”の第一人者として、映画館、ホテル、銀行、空港、レストランの音楽設計を手がけている。2005年には世界初の選曲ガイドブック『DJ 選曲術』(リットーミュージック)を発表し執筆家としても注目を集める。2011年にフォレスト出版より3冊目となる書籍『フィルター思考で解を導く』を発売。DJが書いたビジネス書として話題となり、Amazonのビジネス書/仕事術のカテゴリーで1位を記録した。

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