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2016.03.04 COFFEE PEOPLE ~ vol.9 大沢伸一 × 沖野修也 ~ 後編

〜日本人の長所。自己発信メディアの必要性〜

 

毎月、各界のゲストとコーヒーを入り口に様々なトークを繰り広げていくCOFFEE PEOPLE。

第十回目は前回に引き続き、DJ、音楽家、プロデューサーの大沢伸一さんと沖野修也さんとの鼎談の後編をお送りします。

3月には90年代に大沢さんが率いたバンド時代のMondo Grossoのライブ盤『The European Expedition』の発売20周年を記念して、沖野さん監修のもとで若手とレジェンドを混合させたメンバーによるトリビュート・ライブを行うことが発表されています。

現在のメディアへの思いから独自の方法論、そしてこれからのシーンについてと談論風発のトークが繰り広げられました。では、後編をご覧ください。

 

(聞き手:鳥羽伸博(TORIBA COFFEE代表)。写真:畑中清孝。構成:内田正樹)

 

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(前編からの続き)

大沢:沖野君が言うように、売れている人が偉いとか、お金をたくさん持っている人が偉いという考え方が、ある時点から世の傾向であり風潮だと感じられるようになった。その背景には、人間の心理の変化があると思うんです。ひと頃まで、仮にお金を持っていることを格好いいと思っていても、多くの人にはそれを自らは言わない“羞恥心”があった思うんですよ。それが、言っちゃっても大丈夫になった今の世の中のほうに問題があると僕は思っていて。そりゃお金があったほうが豊かだし、売れていないより売れているほうが良いとも思うんですけどね。この三人はもし憧れだったアーティストに会えたとしても、昔は携帯がなかったから“写ルンです”でもいいけど、ともかくそういったものを気軽に向けたりはしなかったでしょ?

——そうですね。

大沢:何故ならその行為自体がまずカッコ悪いと思っているから。そういう羞恥心なり常識さえ、いちいち説明しなきゃ分からないくらい。日本人の良さが無くなってきているのかなと。

——一言で言えば下品ですよね。下品という言葉の意味がもうわからないのかもしれないくらいに。

大沢:たしかに。テレビつけると普通にお金の話をしていたりする。もうすごい時代だなと。そこに恥ずかしさを感じていないのが問題ですよね。あと、格好いい人が少ない。ちゃんと格好のついている人って、身なりだけではなくて、人として格好いい。そういう人が圧倒的に減りましたね。見習うべき人もいなければ、伝える人もいない。鳥羽君がメディアを通して伝えたいことって、その辺にもヒントがあるのではないですか?

——何だか周りを見回してみても“今日の情報”ばかりですよね。しかも経済評論家などは、一年前に話していたことが大ウソだったのに、いま現在のトレンドについて話していたりする。情報化社会の本当に良くないところは、現時点で売り上げが何千億お店の数が何千件、みたいなどうでもいい情報を“分かりやすい”という理由で流してしまう。だからその人が十年後に同じことを言っているのか、成長しているのかなんて、みんな興味がないしどうでもいい。その人に代わる人がいればいいだけの話になってしまう。でも、人間って本来はそうじゃないですよね。その人が落ちて行ったなら、落ちて行っただけの考え方や理由があったはずだし。またそれをみんなが“そんな話はどうでもいいよ”と言わないから、テレビなどのメディアもどんどんダメになってしまったのだと思うんです。

沖野:そうやって数字や売り上げの至上主義になると、本当の価値が評価されなくなる。決して売れてはいないけれど良いものとか、昔はまだ評価されていたけど、今はもうねえ。だいたい、本来は売れているのに対して「だからどうなの? どうしたの?」といったカウンターという考え方があったんだけれど、そこもかなり減っちゃっている現実がまた残念で。

——突出している人以外の多くは、並列に並んでいるからではないでしょうか。これはもう美学の問題にも及んでしまうんですが、僕は横並びになんて並ばないほうがいいと思っていて。並ぶところには並ばないし、そもそも並べたところで結局話していることは、ラーメンやコーヒー程度のことなのかよ?という疑問もあって。

大沢:だから例えば僕が作った音楽なら、値段を自分で決めて、ここでは買えるけどここでは買えない、という風にやっていくしかない。コーヒーも同じだと思うのですが。

——そう思います。だからうちは百貨店への出店にも興味が無いし、コーヒーばかりを取り上げるような雑誌の特集に載ることについても興味が無い、という気分になっちゃうんですよね。

沖野:だからこそ、こうして自分でメディアを設けて発信していくという行動は、やるだけの必要性があると思うよ。

——例えば広告費が10万円使えるとしたら、要はその使い方が重要じゃないですか。でも最近は、俺は100万持っている1000万持っているといった自慢のし合いばかりでしかないんですよね。そういった金額ではなくて、10万をテンプレート的なものに使うのか、または自分なりに知恵を絞ってもっとカッコことをやるのかといった、お金の使い道のほうが重要なのだということが全く議論されない時代になっちゃって、虚しいんですよね。本質的なカッコよさを考えている人ほど、考えれば考えるほどネガティブな気持ちになるのがいまの日本の現状だと僕は思うんですよ。

大沢:どんどん鬱屈するし、精神的にも不安定になる。沖野君もだいぶ以前からそうだよね?考えても全然いいことがないからって。

沖野:そうそう。そして逆に考えると、それを乗り越えていかなあかんのやな、という覚悟もある。何はともあれ生きていかなければならないし、お金も最低限は必要だし、でも自分の好きなことは譲れないというマイナスな状況を乗り越えていくためには、アイディアのせめぎ合いが重要だというのは常に考えていますね。これは自伝にも書きましたけど、それこそ僕自身、かつて東京に出てきたばかりで何もなかった頃から始まって、アシッドジャズとか大沢君の成功とか国産のR&Bとかが盛り上がった辺りで、一瞬、「俺らもう天下取ったな」みたく思えた瞬間があったんです。もちろん、その頃はこうして音楽全体が売れなくなる時代を迎えるなんて想像さえつかなかった。でも、そんな今日でも僕も大沢君も生き残っている。だから我が身にムチを打ちつつ、日々次の一手を次々と考え続けるしかないと思うんです。

 

 〜ショートカットじゃ情熱には勝てない〜

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大沢:僕が最近取り入れているのは、ゼロリターンというか、一旦すべてをリセットするという考え方です。例えば活動し始めの頃って、LIVEでもお客さんは5人ぐらいしかいなかった。しかもそのうちの2、3人はKYOTO JAZZ MASSIVE(※沖野と実弟の沖野好洋とのDJユニット)の関係者だったりすると、正味のお客さんは2人くらい(笑)。その状況から今日までやれてこれて、じゃあここまでに築き上げたものって何だろう?と毎日考えるんです。仮にスタートをゼロと設定するならば、何かひとつ音楽を作ったらカウント1になる。毎日その繰り返しだと捉えるんです。

——それって言葉で聞くと簡単そうだけれど、実践するのは容易いことではないですよね。

大沢:そう。何故なら、成功体験の記憶が邪魔をするから。しかも、僕自身が上手くゼロリターンできていても、周りはなかなかそうならない。そこをどう乗り越えていくのかが、目下の課題ですね。継続している取り組みもあるけれど、毎日リセットして新しいものを作りたい。そこで、ゼロの人が何かイチを作ったという動きを、上手くプレゼンするのがメディアの力だと思うんです。これは鳥羽君が(前編で)言っていたことだよね? つまり、ストーリーを見たいわけでしょ。それを語られるのを拒否したいのなら、敢えて顔も名前も隠してやるしかなくなる。まあそうしなくても伝わるのならその方がいいのだけど。大抵の人は「ネームバリューやこれまでのアーカイブを利用しないなんて、そんなもったいないことは止めましょうよ?」と言う。当たり前ですよね。でも、そこを捨ててでも何らかやる価値はあるんじゃないかなと思っていて、いま日々それを探しているところです。

——日々ゼロリターンから1を生み出す行為には熱意がともなうはずです。熱意や情熱って、絶対に経験以上のものがあるはずだと僕は思っていて。成功した人はそのキャリアのなかで築き上げてきた成果や、その成果を踏まえての方法論を語ろうとするのですが、その手前の情熱をもっと伝えるべきなのでは?と。

沖野:だからこれからの僕らも、それを伝えていかなければと意識すべきだと思うよ。大沢君と同じように、僕もDJを始めたころはやっぱりお客さんって三人ぐらいしかいなかった。それを思えば、いつだって何もかも畳んでゼロからやれるという気持ちもある。新しいチャレンジは成功するか失敗するか分からないけれど、若かった頃、お客さんが少なかった頃の初期衝動を自分が忘れてしまったら、それが何よりも一番怖い。だから忘れたくないし、立ち戻る勇気も必要だし、もし誰かがそこに興味あるのなら、伝えていきたいと思いますね。別に先生ぶって若い人に語りたいわけじゃないけれど、僕や大沢君の頃は教えてくれる人がいなかったから、自分たちで頑張るしか道がなかったんですよ。もしも大沢君や僕に興味のある人で、そういう話が聞きたい人がいたら、声をかけてほしいですね。今の若い人はあまり苦労をしたがらないって言われているけれど、もしかしたら苦労してまでやりたいものが見つかっていないだけなのかもしれないし、逆に言えば、苦労を乗り越えた先でしか得られないカタルシスも単にまだ知らないだけなのかもしれないし。

大沢:何かの本を開いてみれば「若い頃の苦労は買ってでも」みたいなことはたくさん書いてあるし、みんな知っているはずなんだよね。どうしてそこに興味を持たないのか?と不思議で仕方が無い。1000円のお金を稼ぐための努力って、自分で味わってみないと分かるはずがない。大変だけど、でも楽しい。この楽しさをみすみす放棄しているのだとしたら、もったいないとしか思えませんよ(笑)。

——実際のところ、自分で何らかクリエイトしたい、世の人に認めてもらいたいという人がレコード会社や広告代理店に入ること自体がもうすでにナンセンスな時代になってしまった。先日のオリンピックのロゴ問題も、クリエイティブの話じゃなくて政治の話に聞こえる。

大沢:過程をショートカットしちゃうんですよね。憧れのアーティストがいた。自分もああいう風になりたい。で、なりたいと思っただけで、なれるわけがないから、なれるための方法論を必死で考えたり、調べたり勉強をした。でも、今音楽やりたい人は、明日その人になりたくて、すぐに同じようなことをするんです。

——だから音楽やっているという人に、「どんな音楽やってるの?」と訊いた時に目をキラキラさせながら「はい、J-POPです!」とか真剣に言われたら、「それ、間違っているよ?」とも言えないわけで。コーヒーの場合でも「どういうお店なの?」「サードウェーブです!」って真っ直ぐに返されちゃったら、何にも言えない…。

沖野:僕ね、ちょっと前までは、そういう人に対して「間違っているよ?」と言ってきたんだけど、最近はもう言わないようにしようと思っているんです。鳥羽君や僕や大沢君が信じる音楽やコーヒーやメディアの在り方って、もしかしたら反応してくれる人が大勢はいないかもしれないけど、ちゃんと反応してくれる人にさえ届けばもういいやと。ネガティブな意味では無く、言っても分からないヤツには分からないんですよ。

——まあ大きなメディアに毒されている人たちは、小さなメディアで伝えるべきことを伝えている人たちの言い分なんて聞こうと思いませんよね。

沖野:テレビや雑誌にたくさん出られたら、もっと知ってもらえるのかもしれないけれど、だったらイベントをやるとか本屋をやるとか、自分の好きなことで露出を増やして、皆さんとコミットして気づいてもらう方がいいなって。少ない人でもいいやん!という考え方は、これからすごく大事やと思う。だって世の中の人たちというのは、大多数が「100人より1000人のほうが良いに決まっている」という考えの人たちだから。「俺は100人のほうでいいよ」ということが大事やと思うし、1000人の方がいいという、世の中のムードに負けたらあかんなと思うんですよね。

——ちなみにそういった数の論理で、過去にめげた経験はありましたか?

沖野:あった。あったけど、昔も今も最後は自分の信念を信じているから。

大沢:僕にせよ沖野君にせよ、仮にコアなファン層が100人いたとしたら、彼らは僕らの音楽性がちょっと変わったところで、ビクともしないんですよ。思い切って違うことをやってみようと思う時に、背中を押してくれる存在でもある。もちろん僕だってめげそうになる瞬間はあったけれど、そこは自分を鼓舞して「ダサい1000人よりも格好いい100人の方がいいんだ」って言ってきた。そこで卑屈になるんじゃなくて、いまここにいる100人こそが世界で一番格好いいんだって胸を張れないとよくないからね。

——そこで1000人の方が減って100人のほうが増えていく光景が見られたら、すごく勇気付けられますね。

大沢:まだまだ野心も野望も夢もあるしそれも大事だけれど、僕や沖野君の場合、ここからはどれだけ自分を伸ばしていけるかというところに立ち戻ってやっていかないと年齢的に手遅れになってしまうからね。それに、もうそろそろみんな分かっているんじゃないかな。だって言葉を選ばずに言えば、そんなにクールじゃない人が「クールじゃないよねえ」とか言っているような状況ですから。それはもう本当にクールじゃないってことなんですよ。転換期というか、これから節目が来るんじゃないかなって。

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(プロフィール)

大沢伸一……1967年滋賀県生まれ。音楽家、DJ、プロデューサー、選曲家。リミックスワークを含むプロデュースで、BOYS NOIZE、BENNY BENASSI、ALEXGOHER、安室奈美恵、JUJU、山下智久などを手掛けるほか、広告音楽、空間音楽やサウンドトラックの制作、アナログレコードにフォーカスしたミュージックバーをプロデュースするなど幅広く活躍している。

 

沖野修也……1967年京都府生まれ。クリエイティヴ・ディレクター/DJ/選曲家/執筆家/世界唯一の選曲評論家/Tokyo Crossover/Jazz Festival発起人。開店以来20年で70万人の動員を誇る渋谷The Roomのプロデューサーである。音楽で空間の価値を変える“サウンド・ブランディング”の第一人者として、映画館、ホテル、銀行、空港、レストランの音楽設計を手がけている。2005年には世界初の選曲ガイドブック『DJ 選曲術』(リットーミュージック)を発表し執筆家としても注目を集める。2011年にフォレスト出版より3冊目となる書籍『フィルター思考で解を導く』を発売。DJが書いたビジネス書として話題となり、Amazonのビジネス書/仕事術のカテゴリーで1位を記録した。

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