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2016.09.02 COFFEE PEOPLE ~ vol.13 立川直樹 × 森永博志 ~ 後編

成田-東京-アメリカ-新島-高知

毎月、各界のゲストとコーヒーを入り口に様々なトークを繰り広げていくCOFFEE PEOPLE。第13回目はプロデューサー/音楽評論家の立川直樹さんとエディターの森永博志さんを迎えてお送りします。

時は80年代後半、雑誌『エスクァイア日本版』にて連載されていた伝説の対談“クラブ・シャングリラ”。高感度な読者に支持されたこの連載は二冊の単行本となり、今も多くのファンに愛され続けています。

そんなお二人がこのCOFFEE PEOPLEに登場。前回はクラブ・シャングリラの伝説、その数々が語られましたが、さて、今回は?未読の方は、ぜひとも前回お送りした前編をお読みになってからお楽しみください。

(聞き手:鳥羽伸博(TORIBA COFFEE代表)。写真:荒井俊哉。構成:内田正樹)

 

(前編からの続き)

森永:シャングリラでも『翼の王国』でも、いろんなところに行ったなあ。

立川:こいつヒドいのはさ、『翼の王国』で中国の青島に取材へ行く日に、成田に来ないんだよ。

森永:何か行きたくなくなっちゃって……。

——(笑)。

森永:聞いたらあまりにも内容がヒドくて、こんなのやってる場合じゃない、みたくなっちゃって。で、一緒に行くイラストレーターの早乙女っていうヤツに「ミック(立川)がいれば大丈夫。俺行かないから」って伝えて。あとでミックに聞いたら「あいつ来ないって言い出せずに最後は泣き出したぞ」って(笑)。

立川:「バカ野郎! なんで来ないって早く言わねえんだ!」って(笑)。

森永:それで全日空はお払い箱。5年ぐらい仕事できなかった(笑)。でも5年後ぐらいに舞い戻って。

立川:ロック・ミュージシャンでも、人気あるヤツはカムバックできるからね(笑)。70年代もレコーディングまで全部終わって、さあいよいよ出すぞ!っていう時に急に出したくなくなっちゃうとか、まだ許された時代だったんだよ。僕、ピンク・フロイドの『吹けよ風、呼べよ嵐』っていう単行本を、発売日まで決めて、版元のシンコーミュージックが新聞広告も出して、ほぼ完成していた頃に、ちょうどロジャー・ウォーターズの長いインタビューがメロディ・メーカーで掲載されて、それを読んだら全体の構造を変えたくなっちゃって「出したくない」と(笑)。それで結局1年後に出したんだけど、よく売れたから「まあしょうがないな」で済んだ(笑)。今やったら生きていけないよね。

森永:ただの年寄りのワガママになっちゃうもん(笑)。僕も昔、井上陽水とか吉田拓郎と仕事していたから、本とか作ってると電話かかってきて「やっぱりあれ出したくない」とか言われて。もう完成間近なのに(笑)。それで飛んでって説得していたっけ。

立川:インディペンデントならともかくメジャーだと大ごとだもんね。

森永:ジョー・ストラマーなんかはクラッシュが解散して、ソロになっても、契約が残っているからリリースしなきゃいけないというプレッシャーがすごいって言っていたもんね。

立川:ジャパンだってジャパンという名前で出すと権利で引っかかるから、再結成した時はレイン・トゥリー・クロウって名前でやっていた。昔の契約ってすごかったんだよ。だから黒人のミュージシャンなんて契約書なんか信じないからさ。チャック・ベリーなんか公演が始まる前に全部現金で払うんだよ。昔(内田)裕也さんが彼を呼んで野音でやった時、僕一緒に楽屋にいたんだけど、アンコールがかかったら裕也さんが「ヘイ、ミスター・ベリー、アンコール!」って言ったのよ。でも動かないの。

——(笑)。

立川:みんな止まってるの。で、結局裕也さんがテーブルにドルを乗せて、300ドルで出てったのかな。

森永:PARCOのテレビコマーシャルに出演した時も、僕の知り合いがプロデュースしたんだけど、契約で、ムービーとは別にスチール、シャッターが20なら20、20回シャッター切るのを全部カウントしてるんだって。「はい、終わりな!」みたいな。

立川:僕が日本に呼んだチェット・ベイカーもほとんど契約で騙されていたよ。だから全部キャッシュ。で、キャッシュで、一度僕から「チェットのレコードを作りたい」って言ったら「とにかく印税なんかどうでもいいから5000ドルでどうだ?」というわけ。で、レコード会社もOKしてね。

森永:安いっちゃ安いよね。

立川:まあね。だけどレコーディングなんて二日だよ?(笑)。それで僕が「半分はヴォーカルにしたいんだよな」って言ったら「わかった。じゃああと5000ドル」って(笑)。結局1万ドルで『スウィンギン・ミッドナイト』っていうアルバム作ったんですよ。でもこれには後日談があって、当時のポリドールのディレクターとその2、3年後に話したら「ミックさあ、RCAからチェットのレコードが出たの聴いた?」、「知らないよ」、「どうやら僕たちが作った原盤のヴォーカルの上にヴォーカルだけ取って、インストにして売っちゃったみたんなんだよね」って(笑)。

——それ、凄いですね(笑)。

立川:凄いでしょ?(笑)。 でもそうなったら僕も「お前さ、もうブチブチ言わないで笑うしかねえだろう」って言うくらいしかない(笑)。

——スライ・ストーンとかも契約ヒドかったですもんね。映画(※『スライ・ストーン』。2015年)になったぐらいで。

森永:最後にようやく裁判で500万ドルを勝ち取るまでホームレスだったもんね。でも来日公演を観に行ったけどヨレヨレだったな。

立川:あれは最悪だった。国際フォーラムだよね。あの時のスライと、死んじゃう何ヵ月か前に来たアート・ブレイキーはヒドかった。ほとんどの曲がタタータタ、猿のおもちゃみたいに叩いててさ。僕は中学2年の時に、親父に連れられて全盛期のアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズを観てるからさ。その時のアート・ブレイキーは本当に物凄かったんだよ。

——それはどこでやったんですか?

立川:新宿の厚生年金会館だったかな。僕、コルトレーンも観てるんですよ。中3の時に。

——うちの父はブラジルにいた頃、ナット・キング・コールを観たそうです。今から60年ぐらい前ですけど。

立川:戦後、日本にはCIAじゃなくてCIE(※民間情報教育局)という機関があったんですよ。彼らは第二次世界大戦でアメリカが勝った反米の相手国を洗脳するセクションなわけ。だからアメリカ文化のナット・キング・コールとか、『うちのママは世界一』といったテレビドラマとかをやっていたのは、全部アメリカンドリームを日本に売るためだったの。サンフランシスコ・ジャイアンツとかやって来て親善試合やるのも同じだった。全部日本人を洗脳する為の布教活動だったわけ。

森永:人類史上において考えてもすごい洗脳だよね。それで家電も売ったわけでしょ?

立川:ジェネラルモーターズとかね。車と家電だね。だからそれはもう、アメリカという国はすごい国だよね。

——だからアメリカ製品が売れなくなるとあんなに怒るんですよね。

立川:そうそう。だからいまみんな日本のメディアがドナルド・トランプにビックリしているけど、基本的にはそういう国だったんだから。ニューヨークとかロサンゼルスとかシカゴとかはサンフランシスコの文化が入ってきてるからまだマシだけど、中西部とか行ったらヒドい。日本の場所なんか知らない人たちが日本のテレビでくだらない番組観てさ。隣の家まで2キロみたいなとこの人たちだからね。

森永:カントリーしか流れないの?

立川:うん。しかもウィリー・ネルソンなんか嫌われるような、正統派っていうか思いっきりタカ派のカントリー。あとジョン・ウェイン。

森永:ジョン・ウェインが出ていた『静かなる男』(1952年)を監督したジョン・フォードはアイルランド系の移民だった。難しいよね、アイルランドって。U2とか。黒人を弾圧したのはアイルランド系じゃないのかな。マイノリティにマイノリティをぶつける。ベトナム戦争だってそうでしょ?

立川:だから昔もオーストラリアが流刑地だったんだよね。ネッド・ケリー。オーストラリアって何であんなに品がないかっていったら、流刑地だったから。大きな新島(※江戸時代から1871年まで)みたいなもんだよ。あそこも昔は政治犯が流人として流されていた島でしょ?

森永:新島って不思議な島だよね。すごくキレイな白い砂に、お地蔵さんみたいな墓があって。サイコロ好きな人の墓はサイコロの形をしててさ。

立川:ところどころ削られていてね。博打好きが削って自分のお守りにしちゃうんだよ。おもしろかったよね。いい女もいたよねえ。でも口説き始めたら「東京の人は嘘つきなんよ」なんて言われてさ。よくよく聞いたら「銀座で働いてた」って。で、ちょっと痛い経験をして島に戻ったらしい。

——そういえば高知に行った時、お昼を高知の若い芸者さんと食べたんですが、一応僕もコーヒーの仕事してるんで「何で高知ってこんなに喫茶店があるの?」と訊いたら「シングルマザーが多いから。食事を作る負担を考えると、みんな喫茶店にご飯を食べに行くんですよ」と教わりました。ちなみにその彼女は「私の周りなんて9割以上がシングルマザーですよ」って言うんです。

立川:みんなで高知に行くか(笑)。でも四国とか南のほうの女が東北とかと違うのは我慢しないってこと。

——それ、まさに彼女が言ってました(笑)。

立川:我慢しないし、性的にも比較的おおらか。福岡なんかもそういうが傾向あるね。結局、東京まで行くのがイヤな九州の女の子でも、福岡だったら勤められるから。熊本の子も佐賀の子もそう。男は意外と東京の大学に行っちゃう。すると絶対数的に男と女のバランスは男が少なくなる。それで「夫を探そう!」みたいな活動が福岡で繰り広げられていくわけ。

——それ本当ですか?(笑)。

立川:うん。あと四国で面白かったのは、いまはどうだかわかんないけど、僕が若い頃は高松でチンチンを切る手術をやっていた。

森永:ああ、ニューハーフの連中は高松だったね。その前まではモロッコだったけど。京都あたりのニューハーフは高松だった。

立川:高松に名医がいたんだよ。ここは載せてもいいけれど、TORIBA COFFEEっぽくないかも(笑)。

 

ロックに惹かれる男たち。リアルに惹かれる女たち

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——最近は若い子が新宿ゴールデン街で飲んでいるらしいですね。

森永:そういえば火事の後に行ったら、ものすごい人が路地にいて歩けないぐらい若い連中が飲んでいた。で、音がガンガンにかかっていて。

立川:僕はあそこまで解放的になっちゃってゴールデン街ってあんまり好きじゃない。

森永:ちょっとイビサっぽいよね。

——最近はテレビでもいわゆるオネエ系のキャラクターの方々がいっぱい出ていますよね。でも新宿2丁目とか、それこそ銀座にもそういう店ありますけど、僕はああいう人たちがああして表舞台に立つ姿に、少し違和感があって。

立川:分かるよ。何か隠花植物が5年に1回ぐらい、月の花が咲くみたいに出てくる感じがいいんだよね。別に誰が嫌いとかってないけど、最近の感じはちょっと変だよね。

森永:美輪明宏さんとかはちゃんと芸がありますからね。

立川:そうそう。でも僕は美輪さんでもやや出過ぎだと思っちゃう。テレビはいますごく変なことになってて、お笑い芸人にしても、最近はあんな風に偉そうなことを言うけど、それよりも昔の由利徹さんとかみたいに、デタラメじゃなきゃいけないと思うんだよ。下品なことをやっても「粋だねえ」っていうのが、やっぱりお笑い芸人には最高の褒め言葉だと思うし。いまは怖がって、みんな守りなんだよね。レギュラーを守りたい、みたいなさ。

森永:たこ八郎とか全身懸けてたもんね。

立川:あとは大島渚とか。

——メディア全体で「面白ければいい」の面白さのレベルが下がってきている気がするんです。崇高なものと安っぽいものの距離感が限りなく近くなってきちゃったというか。

森永:そういえばコーヒーですごく印象に残っているのがシアトル。僕は一時シアトルに行っていて。グランジが出てきた頃かな。ニルヴァーナもまだブレイクしてなかった頃だったんだけど。冬がめちゃくちゃ寒くて、でもみんな半ズボンなの。そんな半ズボンの若い連中がカフェに集まって、酒飲んだ後にコーヒー飲んでバンドの話をしてるんだよ。バンドをやって、Tシャツ作って儲けようぜ。みたいな話をね。あれは感動したなあ。それがいまのスターバックスかタリーズか何かの原型みないなコーヒーだったかどうかは知らないんだけどさ。

立川:向こうの高級レストランとか、キッチンにいるヤツら、ほとんどタトゥー入ってるもんね。

——アメリカのコーヒー業界はみんなそうですね。

立川:別に僕はタトゥー好きじゃないけれど、そういう自由さは必要だと思うよ。だっていま日本は何処に行っても刺青禁止だけど、オリンピックの選手が来たらどうするんだろう? アンジェリーナ・ジョリーならいいのかよ?っていう(笑)。

森永:ちょっと異常だよね。オリンピックになったら開国するのかな?(笑)。だって企業側にタトゥー入ってたら銀行取引だってダメになるんだもん。この国ヤバいよね。

立川:いまの日本って、中国みたいに報道規制されている感じする。

——そういえば立川さんに教えていただいたアメリカのクリーブランドにある“ロックの殿堂”に大きな映画館があって、殿堂を受け取った人たちのライヴが流れるんですが、そこにメタリカが出てきて。メタリカっていま凄くカッコいいんですよ。で、昔のメタリカといまのメタリカを比べると、やっぱりいまのメタリカがいい。その時代を経過して見ていくと、刺青もどんどん上がってきている(笑)。でもいまのほうが人間らしいんですよね。

立川:メタリカとかスコーピオンズとかを観ていると、やっぱりロックンロールというのは歌舞伎なんだなって思う。やっぱり歳取ってきた時に発揮される雌伏の芸みたいなのがあって。ずいぶん前にストーンズが『ブリッジズ・トゥ・バビロン』(1997年)を出した時に、シカゴでツアーのオープニングを観に行ったんだけど、その時アメリカのメディアに感心したのは、翌日のシカゴトリビューンとか何紙かの新聞にいろんな記事が出たわけ。そのなかで最高だったのが、“ストーンズ・プレイズ・ローリング・ストーンズ”という見出しでね。つまりストーンズは、いわゆるロックのクラシックを自らシェイクスピアの演劇のように演じていると。で、ミック・ジャガーは老いが忍び寄り昔ほど俊敏ではないが、その振りは完全にシアトリカルな境地に達している、と。あれを読んで“あ、ストーンズはまだいけるな”と思ったね。

——それはカッコいい記事ですね。

立川:サンタナも『Ⅳ』(2016年)っていう最新作がすごいよ。これはクライヴ・デイヴィス(※音楽プロデューサー。数々の大手レーベルの重役を歴任)と組んでいるんだけど、彼はロッド・スチュワートがダメだった時にアメリカンスタンダードを歌う仕事を手がけたんだよ。

——クライヴ・デイヴィス、凄いですね。だけど自分の会社をクビにされる。あれがまたアメリカっぽくていい。バリー・マニロウを連れてきて復活、みたいなのもいいですよね。

立川:そうそう。ボブ・ディランもクライヴ・デイヴィスにはすごく感謝しているらしい。バリー・マニロウとシェリー・マンとやらせたのもたぶんクライヴですよ。バニーって人は顔で損しているんだよね。顔がちょっとオウムみたいで、ちょっとアホっぽい顔してるじゃない? もしもうちょっと渋い顔だったら絶対もっと売れたと思う(笑)。

——そういえば10月にサンフランシスコでストーンズとかディランがフェスに出ます。

立川:全然興味が無い。

森永:僕も。フェス嫌いなんです。

——僕もなんです(笑)。

立川:フェス嫌いなんですよ。すごく薄い感じがしちゃうから。だからフジロックも1回も行ったことがないもん。あ、1回豊洲でやった時はちょっと行った。近かったから。でもやっぱり途中でもういいやってなって。

森永:快適じゃないしね。

立川:しかも必ず短いじゃない? 演奏時間が。やっぱりコンサートって、例えばボブ・マーリーは1976年のロサンゼルスの郊外の野外劇場で3時間ぐらいやったんだけど、だんだんグルーヴが作られていく感じがいいわけ。フェスって頭からとりあえずヒット曲やって掴み取ろう、みたいな感じでしょ。なんかさもしいんだよな。

——(笑)。

森永:あと、なんか「ノッてるかい?」みたいなのもイヤだ。バカじゃないの?ってなっちゃう。俺、音楽は絶対にノるもんじゃないと思う。こないだもあるフェスみたいなのに顔出したんだけど、やっぱり「ノッてるかい?」だった。バカなんじゃないのこいつら?って思ったよ。個人が楽しむというか、個人になって楽しむのがロックなのにさ。

——そうなんですよ。

森永:あとヒドいのが警備。警備されている中でロック観るなんて最低だよ。何も自由じゃない。で、帰る時も順番みたいなさ。

立川:規制退場とか聞くだけでイヤだね。

森永:ホント『何がロックだよ?』みたいな。このあいだキックボクシングを観に行ったら、そこに来ていた女の子、みんなかわいかった。何であんなにセンスいいのかな? 真剣だからかな?

——悪い男に惚れるんじゃないでしょうか(笑)。

森永:柴田春樹っていうヘビー級のボクサーなんてめちゃくちゃカッコいい。リアルだもん。いい女はリアルなものが好きなんじゃないかな。

——名言ですね。ただそういう女の人はオスが堕ちた時の離れる速さもハンパじゃないでしょうけどねえ。

立川:でもさっきの高知の女じゃないけど、僕は女って現金でいいと思うんだ。糟糠のナントカなんてバカだよ。やっぱりいい女はいい男について、ダメになったらとっとと次の新しい男に行かなくちゃ。

追求する者、求道する者

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——それにしておふたりは人のいろんなところを見ていますよね。

立川:ファーブルの昆虫記じゃないけど「人間昆虫記」を書きたいと思うぐらい。電車とか乗っていても人を観察するのが好き。だから僕、絶対にテレビのレギュラーとか頼まれてもやらないのは、とにかく顔バレしない人生を選びたいから(笑)。顔がバレてなきゃ何でもできるじゃん。

森永:これ以上何がしたいの?(笑)。まあたしかに芸能人はキツいね。作家のほうがいいな。

立川:テレビは魔物みたいなものだから。出なくなると「最近出ないね。もうダメなんじゃない?」って言われるのは、自分の意志を超えちゃうからだよね。だいたいアメリカのアッパ―ミドル以上の家ってテレビなんかないからね。彼らはテレビのことをイディオットボックスと呼んでるんだよ。アホの箱って(笑)。NHKのBSとか、CATVのBBCやCNNは面白い。プリンスの訃報なんか1時間ぐらいやっていたからね。この前のオバマ大統領とメルケル首相のドイツでやった時の共同記者会見をずーっと流したりしてね。日本のテレビって編集しちゃうんだよ。でもニュースはエディティングしちゃいけない。そうするとずっとオバマとメルケルがちょっとジョークを交えながらもシリアスな方向にいく様子が分かる。いまこうして僕らが話しているようにね。この話も編集の仕方によっては、オジさんが二人でスケベな話しかしていないようにもできるけど、実際、僕らはインテリジェンスを振りまきながらしゃべっているでしょ?(笑)。

——(笑)。

森永:僕は絶対テレビはやめようと思った時があって。それはソ連が崩壊して、テレビで毎日「モスクワが食料危機だ」、「このままいくとモスクワ市民は飢え死ぬ」と、何もない食料品店の前にモスクワの市民が行列をなしているというニュースがずっと流れていた頃。その時、ホントかな?と思って、ひとりで行ってみたの。で、モスクワ大学に通っているヤツが白タクをやっていたんで、そいつを雇ってモスクワを回ったら、確かに行列をなしているところはあったんだけど、それは食料品店じゃなくて『ターミネーター』の映画館の前とサーティワンアイスクリームの前だった。要するにアメリカ文化に飢えていたの。「食料なんかは全然問題ない」ってみんな言っていた。だって郊外にみんな菜園持っているんだよ?

立川:ロシアはそうなんだよね。だから日本人が貧乏だとかバカにしていたのと、実際は全然違うんだよ。

森永:誰も飢えてないんだもん。ということはやはり編集だったわけ。その時、ああもう絶対テレビ見るのやめようと思ったんだ。

立川:ピーター・ハイアムズっていう監督は『カプリコン・1』(1977年)という映画でハリウッドを干されたんだ。これがすごい映画で、アポロは月に行ってなくて、あれはスタジオで撮ったもので、それを暴こうとした兵士が国から追われるという話なの。すごいよく出来ているんだけど、もう国が完全にブチ切れちゃったの。もう1本、ダスティン・ホフマンが出ている『ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ』(1997年)と映画もすごくてさ。テレビ局のヤツがイラン、アフガンの中継をやるわけ。すると急にプロデューサーが「その真ん中に女の子ひとり立っていたほうが悲惨さが出るんじゃないか」とか言って、CGの女の子を入れるわけよ。「ちょっと顔に汚し入れてくれ」みたいな(笑)。

——でもいま実際にそういうことがまかり通っているんでしょうねえ。

森永:湾岸戦争の時も、ちょうど僕はロンドンによく行っていたんだけど、あの戦争の写真集には黒人が全く出てこいないの。行ってるんだよ? 黒人も戦争に。むしろ黒人のほうが多いくらいだったのに。全部白人。それもヤバいと思ったなあ。

——たとえばジャマイカってテレビで観るとすごくキレイで、陽気にみんなが踊っているイメージですけど、行ったらびっくりするぐらい怖いですもんね。

立川:ジャマイカでいちばんすごいのは、レンタカーのナンバーがずいぶん前だけど禁止になったこと。強盗に遭うから。で、いちばんすごいのが、レンタカー乗っていたヤツが窓開けていたら、腕時計目的で腕ごと切られたヤツがいたらしいからね。

森永:僕は一時中国によく行っていて、奥の奥の奥地まで行ったけど、危険なことは一度もなかった。

立川:僕も今年2回行っているけど、全然日本で報道されている感じと違うよね。中国人の爆買いも、要は向こうの人からしてみたら、田舎の成金が勝手に行ってあんなことしているから、自分たちも迷惑だと言うわけ(笑)。でも、そんな記事は出ないでしょ?

森永:だからメディアを通して世界を知るなんて無理なんだよね。全部コントロールされているんだから。

立川:コンサートのチケットも、いま北京では8段階ぐらいあるんだけど、いちばん高い席は2万5千円ぐらい。つまり日本より高い。ちょうど北京行った時に久石譲さんのコンサートに行ったんだけど、3千ぐらいのキャパが2日間完全ソールドアウト。お客はみんなジブリの曲が聴きたいから来ているんだろうけど、第1部が現代音楽みたいなのをやるんだよ。でもすごくウケるの。つまり来ている客のレベルが高いわけ。

森永:教育がすごいんですよね。社会主義だから。ピアノみんな弾いていたりとか、クラシックが。むしろロックが入ってこなかったから、めちゃくちゃクラシック的な感性を持っているの。スピーカーもものすごい金遣うしね。アイアン・メイデンがスタジアムでやっていたし。上手いのが好きなんだよね。ヘビメタって下手なバンドいないから。あと、ちょうど天安門の事件の時にグランジが出てきて、やっぱりニルヴァーナ、つまりカート・コバーンは中国でヒーローだったよ。彼が最初のロックヒーローだった。アインシュタインと同じレベルでカート・コバーンのポスターが貼られていたからね。

——行ってみなきゃ分からないですよね。

森永:ある取材でFPMの田中(知之)さんを北京に連れていったら感動していたもんね。京都みたいなところですねって。幅(允孝)君とフリーマーケットとか連れていったら50年代の社会主義の時代のグラフ雑誌があって、めちゃくちゃアヴァンギャルドでカッコいいんですよね。

立川:胡同に昔の京劇スターの梅蘭芳の家がそのままレストランになっているの、あるよね?

森永:あれすごいですよね。

立川:ちゃんと食事が出来るんだけど、梅蘭芳が食べていたメニューがそのまま食べられる。鳥なんかも全部油抜きの感じとかが完璧なの。

森永:しかもそれをやっているのが青年投資家。多分、漢民族と満州族とモンゴル族っていうのが3要素であって、漢民族が圧倒的に強いけど、満州族系って芸術家が多いんですよ。その連中がまた富を持ったら、やっぱり芸術に投資してくるよね。漢民族は完璧商業と政治だから産業のほうをやるけど。モンゴル系はまったくそういうのに興味がないから、馬なんだよね。それを漢民族一色に捉えるからおかしなことになる。

立川:そういえばこの前マッケンに教わった香満楼のスッポンは超美味かったな。

森永:素晴らしいでしょ。北京ダックよりすごい。

立川:うん。僕を連れていってくれた中国人も、スッポンがここにあるのは知らなかったって。

森永:安いんだよね。北京ダック1羽が1200円ぐらい。それを108枚に切るの。

——108枚?

森永:煩悩の数なのかな。だからひと切れ5円ぐらいかな?

立川:以前、僕はよく大連に行っていたけど、帰りはそのまま成田に帰らず、一度大連から北京に寄って北京ダックを食って北京ダックを1羽買ってから帰っていたもん。

森永:贅沢でもなんでもないからね。東京だと北京ダック2切れで5千円ぐらい。バカみたい。

立川:ともかくあのスッポンにはヤられた。

——僕は先日ロシアに行ったんですが。キャビアが125グラムで6、7千円でした。ベルーガの一番いいやつがですよ?

森永:安い。

立川:そういうキャビアは今の時期が一番。美味いのは、岩ガキを瞬間スモークして、その上にサワークリームをぐわーっと塗ってそこにキャビアをどさっとやるやつ。あとは、越前ずわいが解禁になったら、丹念に身をほぐして、味噌の部分は使わず、全部大皿にキレイにぺたーっとやって、それを5分か10分だけ冷凍庫に入れるんですよ。そうするとカニの水分の表面がちょっとジャリジャリジャリって感じに氷るから、そこにライムをぶわーっと薄くかけてキャビアをバーンと乗せる。

森永:それはどこの食べ方なの?

立川:僕が考えた。

——(笑)。

森永:いまロンドンはまた日本食ブームらしいね。いちばん人気がカツカレーらしい。

——(笑)。

森永:いや本当らしい。昨日電話で聞いたばかり。

立川:たしかにロンドンのヤツと電話で話していたら、「すごいことになってるぞ、日本食。何やっても当たるから投資するヤツいねえかな?」って言っていた(笑)。

——僕が96年からロンドンで8年ほど住んでいた時はラーメンブームでした。ワガママっていう、いまじゃ空港にもあるくらい成長したラーメン店に行ったら、みんな焼きそば食べているんですよ、ラーメン屋なのに。「なんで?」って訊いたら「猫舌だからだ」って(笑)。それがどんどんラーメン食べられるようになって。

森永:いま一風堂もすごいんでしょ? 僕の甥っ子(※森永邦彦。デザイナー)はアンリアレイジっていうブランドをやっているんだけど、一風堂のユニフォームを頼まれたらしいよ。

立川:でも日本って変なところがあるから、そういう流れがいい意味で逆輸入されると、しょうもないままごとフレンチみたいなのが駆逐されるかもしれないからいいのかも。

——いま西海岸もラーメンブームらしくて、シェ・パニーズのオーナーのアリス・ウォータースの弟子がやっているラーメン屋がある。それって日本だと吉兆の人がフランス料理屋やっているようなもんですよね。

立川:京都が面白いところは、普段は和食を作っている人がちょっとパスタ系のものをシャレで作ってみましたっていうと、めちゃくちゃ美味かったりする。ああいうのがいいんじゃないのかな。

森永:上海から来た人が、向こうでオムレツ屋とか親子丼やったら流行るんじゃないかって。

立川:リゾットみたいな感じになるから?(笑)。味が濃いよね、中国は。だからあのエレガントな正しい親子丼はなかなか(笑)。

森永:音楽はCDという大量生産があって、大量消費の値段が決まっている。本とかもそう。でも食べ物だけは、本当の意味でディスカウントできない。

立川:あと食べ物と飲み物はコピーができないからね。だから最終的には食いもんだと思うよ。ワインだって、どんなに学習してどうのこうのやっても、基本的にうまいワインを飲むという行為に限っては、絶対的にお金を払わない限り飲めないわけじゃない? コーヒーもそうでしょ。コピーできないのがいい。

——ただ僕は逆の考え方もどこかにあって、コーヒーって意外とどうでもいいもんだともどこかで思っていて。

立川:だから鳥羽君はいいんじゃないの? あんまりコーヒーで語られ過ぎるのもイヤだしね。

森永:ジム・ジャームッシュの『コーヒー&シガレッツ』(2003年)映画があるけど、あのトム・ウェイツとイギー・ポップの感じぐらいがいいんじゃないかな?

——だから結局そこなんだと思うんです。大好きな女の子と一緒に飲んだら美味しいけれど、別れ話で飲むコーヒーは絶対美味しくないわけで。さっきのベット・ミドラーの「ローズ」と一緒で、受け取る側で調整できちゃうわけなので。

立川:ひたむきに何か作るのは好きだけど、それを人に強要するのは好きじゃない。だから追求者はいいけど、求道者はイヤだね。そういう想いは、人に強要するもんじゃないからさ。

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(プロフィール)

立川直樹……1949年東京都生まれ。通称ミック。グループサウンズシーンにおけるプレイヤー、ロックバー経営、舞台美術制作、ロック評論家など様々な職業を経て、70年代初頭からメディアの交流をテーマに音楽、映画、美術、舞台など幅広いジャンルで活躍するプロデューサー・ディレクターとして高い評価を得る。プロデュース・ディレションの分野はロック、ジャズ、クラシック、映画音楽、アート、舞台美術、都市開発と多岐に渡り、音楽評論家・エッセイストとしても独自の視点で人気を集める。『シャングリラの予言』(正・続。森永博志との共著)、『セルジュ・ゲンズブールとの一週間』、『父から子へ伝える名ロック100』、『TOKYO 1969』など著書多数。最新作は『すべてはスリーコードから始まった』(石坂敬一と共著)。

森永博志……1950年生まれ。通称マッケンジー。エディター。 音楽雑誌、文芸誌、ストリート・マガジン編集長。創刊当時の『POPEYE』、『月刊PLAYBOY』、『BRUTUS』で特集記事を担当していた編集者としても知られている。編集者としての代表作は『南海の秘宝』、『小説王』、山川惣治『バーバリアン』、上村一夫『菊坂ホテル』、吉田カツ『ラウンド・ミッドナイト』、布袋寅泰CDブック『よい夢を、おやすみ。』、『PATAGONIA PRESENTS』、『森羅TRIP TO THE UNIVERSE』など。『シャングリラの予言』(正・続。立川直樹との共著)、『原宿ゴールドラッシュ』『ドロップアウトのえらいひと』など著書多数。最新刊は『あの路地をうろついているときに夢見たことは、ほぼ叶えている』。

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