毎月、各界のゲストとコーヒーを入り口に様々なトークを繰り広げていくCOFFEE PEOPLE。今回はオガワチガさんとダイアナ・エクストラバガンザさんのお二人を迎えての後編をお送りします。
1991年から長年に渡りGOLD FINGERイベントと同名バーのプロデュースを手がけるかたわらで、LGBTのアイデンティティの普及に努めるオガワチガさん。女装家としてMXテレビ「バラいろダンディ」にレギュラー出演するなど、他方面で活躍中のダイアナさん。今回の後編でも、お二人から貴重なエピソードの数々が語られています。ぜひご覧下さい。
(聞き手:鳥羽伸博(TORIBA COFFEE代表)。写真:石毛倫太郎。構成:内田正樹)
——チガさん、出身はどちらですか?
チガ:つまんないよ? 東京は梅ヶ丘だもん。
——ダイアナの生まれ育った大阪はどういう街だった?
ダイアナ:今里新地って、昔は芸者さんとかがいた街だったんだけれど。まあ私が小、中学生ぐらいの時から韓国スナックが続々出てきて、わりと日本語が通じない感じの地区になったわけ。で、みーんな桂銀淑みたいなおばちゃんで(笑)。ピンク色の東京スタイルのスーツみたいなのを着て。
(一同爆笑)
——それも現在の自分に何らかの影響を与えてる?
ダイアナ:……多少ある……。
チガ:でも韓国人ってもっと前からいたでしょ?
ダイアナ:鶴橋とかはね。うちの方は、在日の人じゃなくて、もうちょっとクリミナルツーリストに近いような人たちだった(笑)。もう日本語を覚える気もないし、っていう街だったんですよね。それも多少影響してるんじゃないかな。で、世代的にテレビつけたら訳の分かんない女の人がいっぱい出てたんですよね、今よりもたくさん。それこそ塩沢ときさんとか(笑)。大きい頭して、上品な口調でとんでもない下ネタ言ってるっていうね。だって「私なんてザー○ン一升飲みましたのよ」とか言ってたから(笑)。とんでもない異形の人が今よりいっぱい出ていたわけ。
チガ:インターネットもなかったし、まだテレビ様様の時代だったからね。飯島愛さんとかが出てきた時のTバックとか、テレビはいまよりもっとお下劣だったよね。
ダイアナ:そうそう。美人は美人ですごい美人が出てたし、とんでもなく歌うまい変な顔した人とかもいたし。由紀さおりさんとかね(笑)。それこそ松坂慶子さんみたいな美人がふわふわのデカい頭して出ていたわけで。
チガ:「愛の水中花」ね。でもあの人も出はね、『夜の診察室』っていうエッチな映画が初主演作だったのよね。
ダイアナ:おっぱいに対するハードルとかも昔のほうが低かったんだろうね。
——「ドリフ大爆笑」とか、おっぱいぼろぼろ出てたよね。
チガ:出てた出てた。
ダイアナ:まあ塩沢さんとか松坂さんとか、何かそういう人をテレビを観ながら、私、将来ああなるんだなあって何となく思っていたような気がするわけ。
——あとは誰に憧れた?
ダイアナ:阿川泰子とか。今日の髪はちょっとイメージ近いかな(笑)。あとはいしだあゆみとか。
チガ:でもその当時はまだ松坂慶子も若いんだよね。山口百恵も10代からすごい色気で、それを大人が“あなたに女の子の一番大切なものをあげるわ”とか歌わせて喜んでいたんだから、よくよく考えるととんでもない話で。
——「駆けてきた処女」(三田寛子)なんて曲もありましたね。でも僕が10代後半から20代の頃、外で芸能人の人を見かけたりすると、テレビで観ても何とも思わなかった人が、実はものすごい色気があったりした。
チガ:それはやっぱりインターネットがなかった分、おテレビ様の時代でメディア様様だったからだと思う。いまはSNSでみんながタレント気取りだから。
ダイアナ:垣根はずいぶん低くなって、境目みたいなのが曖昧になってきてるっていうのは確かにそうかもしれませんけどね。やっぱりあの頃の人たちのほうが命を懸けて女をやってたんじゃないかなっていうのは感じますね。
チガ:ちなみにご実家とかはご存知なの?
ダイアナ:まあもうさすがにテレビとか見ているだろうしね。
チガ:ご実家に帰られたりは?
ダイアナ:帰りますよ、ぼちぼち。すっぴんで。ただどうやらあまり詳しく話して欲しくもなさそうな気配だし、まあとりあえずそこは……。
チガ:テレビとか出ているのはご存知ってこと?
ダイアナ:もう観ちゃってますからねえ。私、何年か前のお正月に実家帰ったんですけど、その時、家族でお餅とか食べていたら、出てきちゃったんですよ、テレビに私が。
(一同爆笑)
ダイアナ:突然番宣が流れ出しちゃって。“あぁ~っ!!”と思って。さすがにオンエアの時間は注意して避けるようにしていたんだけど、番宣までは考えていなくて(笑)。
チガ:で、どうなったの?
ダイアナ:もうどうしようって思っていたら、母親がそうっと「あんた、こんなん(番組)1本出て、(ギャラ)なんぼもらえんのん?」って(笑)。
(一同爆笑)
——マジョリティだマイノリティだといった言い方は置いとくとしても、やっぱり社会がどこまで理解してくれるかという点は、チガさんが頑張って活動されているポイントですよね?
チガ:いや、私はそんなに頑張ってるつもりないんですが…。最近は私の次の世代で、それを真面目にやっている人がいっぱいいますから、真面目なところはお任せして、何かあったら呼んでもらって、昔話というか、インターネットがなかった時代のことなら話しますよ?って感じかな。
——少し前、大学生の男の子が同級生にカミングアウトしたら、それがみんなにまわって自殺しちゃったというニュースがありましたよね。
チガ:うん。あった。でもそういう話は昨日今日始まったわけじゃなくて、昔からいっぱいあるんだもん。三島由紀夫の本にも美輪明宏の本にも書いてあるし。家族から迫害されたような話もいっぱいある。それは昔もいまも変わらない。
——最近は新宿二丁目もすごくオープンになってきて、ゴールデン街もイビザみたいになっていますが、それは何か作用していますか?
ダイアナ:二丁目にせよゴールデン街にせよ、上に出てきたっていうわけでは決してなくて。観光バーというかノンケ相手の二丁目の商売自体が差別の仕組みみたいなのを利用して金を稼いでいる、みたいな側面は、昔も今も変わってないわけだから。何かに作用するとも繋がるとも思えないかな。
チガ:いまは二丁目もいろんなお店があって、確かにみんなオープンだし、高校生のゲイみたいなのもいっぱいいる。それはそれでいいなと思うけど、私もそういう子たちの母親以上の年だから、男とか女とかゲイとかあれするよりも、ただただ本当にすくすくのびのびと、悪いことをしないで育ってもらいたいなあと思うばかり(笑)。
うちはレズビアンバーと言っているけれど、期待されて来られると本当に困るの。ノーチャージだし、普通のカジュアルな感じで、ちょっと笑かしてよとか、エッチな話してよ、みたいな感じで来られるのが本当に困る。ノンケのカップルで来て、3P相手の女の子を紹介してくれとか言う人もいるし。
ダイアナ:えぇー!?
チガ:あとはレズビアンマニアっていうのがいるのよ。他にも出禁のヤツが数人いて。そこもやっぱり男女の違いであり、LGの違いがすごく大きい。よく「おこげです」とか「私はほぼオカマ」とか言って、キレイな女で仕事ができる女もいるけど、冷静に考えたら荒らしだからね失礼だと気付かないのかしら。レズビアンの観光バーっていうのはないから。でもアダルトビデオみたいな世界はファンタジーで終わらせて下さいっていう感じ。じゃないと犯罪になるだけだから。
ダイアナ:男嫌いと女好きって全然違う話だからねえ。
チガ:うん。こういう話って、根底に愛がないんだよね。男とか女とかより、もうちょっと何か優しい気持ちで人を愛しましょうよ、みたいな気持ちがなくなりがちなのはすごく悲しいことだと思うから。
チガ:私は犬と暮らしているからわんこラブなんだけど、ダイアナは何か最近のお楽しみってあるの?
ダイアナ:ああ、私ね、ちょっと前に見つけた、ローラ・ファラーナっていう女にすごくハマってて。70年代にラスベガスの女王って言われてた女で、もうずっとショウビズというかベガスでやっていて。もう結構いい年で、たぶんまだ生きていると思うんだけど。その70年代にベガスの、自分の名前が冠についたショーや番組をやったりしていた人で、サミー・デイヴィスJr.の愛人だったらしいの。その女のDVDがあるわけですよ。それを見つけてしまって。もうこの女がおかしいのよ!(笑)。その前はミッツィ・ゲイナーっていう、映画の『南太平洋』とかに出てた女優なんだけれど、60年代以降のミッツィ・ゲイナーが頭おかしくて。
チガ:実際に会って変な人は?
ダイアナ:え? チガさん以外で?(笑)。まあ変な人だらけっちゃ変な人だらけですもんね、私たちの周りはお互いに。でもいないかなぁ最近は。私、基本、引きこもりなんですよ。もうずっとDVD見たりしている。で、ピザーラの、あからさまにダメな味がするピザなんか食べて。ダメ人間ですよ。で、ラクエル・ウェルチとか、ずっと変な女のDVDばかり観ているんですよ。
——チガさんレズビアン映画でお薦めは何ですか?
チガ:ちょうどこないだレズビアン映画を3本選ぶという企画があって選んだのが、『キャロル』と『バウンド』と『ウーマン・ラヴズ・ウーマン』だった。
ダイアナ:ワースト3つは?
——そうそう。ふざけんな!みたいな映画はありますか?
チガ:うーん、まあ映画じゃないけど、レズビアンを使ってちょっとヒットしちゃったロシアのtATuっていう二人組がいたよね。
ダイアナ:あのドタキャンの、ロクでもなかったやつだ(笑)。
チガ:そうそうそう、あの似非レズビアンの。ああいう風にネタ的に使われると、やっぱり悲しくなるよね。
——ではレズビアン関係じゃなくても、最近これはどうなんだ?と思った映画とかありましたか?
チガ:うーん。最近って、映画館に行く前にハズしたくないからちょっと調べちゃったりするじゃない? だから映画館でハズすこともあんまりないかな。いま一番観たいのは『シン・ゴジラ』。まだ観てないの。
ダイアナ:観ました。あれは“会議”映画ですね(笑)。私は普通の劇場で観たんですけど、4Dの劇場では石原さとみが出てくるといい匂いがするっていう話を聞いた(笑)。
チガ:へぇ(笑)。昔さ、87年にロンドンにいた時に、ディヴァインの『ポリエステル』っていう映画を観たんだけど、今の4Dの元祖みたいなもので、初めにソノシートを渡されるの。
ダイアナ:あ、こするやつでしょ?
チガ:それ! 途中でスカンクのおならとか匂いが出てくるの。で、みんなでこするの。すごく楽しかった。
ダイアナ:赤青の3Dメガネとかが流行ってた頃ですよね.
チガ:そうそう。で、まさにその時行ったのが夜から朝までかけてのイベントで『半魚人』とディヴァインの『ポリエステル』2本立てだったの。劇場の前のほうではみんなドラッグやってて変な匂いがぷんぷんしてきて。最高に面白かったなあ。
ダイアナ:時代だねえ(笑)。『悪魔の毒々モンスター』とか流行ってた頃だからね。なんか変な映画がいっぱいあった。ちょうど香りをそういう粉体にする技術が出来上がった頃だったのかな。だから雑誌の折り込みでも新しい香水のサンプルが始まって。こすると匂う広告がすごく流行ったのよね。
チガ:そうそう! 当時日本に帰ってきたらレンタルビデオ屋さんにも匂いのジャケットとかあって。でもみんなこすった後だからもう匂いなんかしないの(笑)。
ダイアナ:覚えてる覚えてる。“世界初匂い付き映画”ってジャケットに書いてあってね(笑)。
——高度経済成長の面白さはもちろんあったと思うんだけど「あんなのあったね」って言われるような試みってやっぱり面白いですよね。
チガ:何でも1回目って荒削りで勢いだけみたいな感じが多いけど、そこにそこなりの楽しさがある。それがあるから今があるんだし。
ダイアナ:どこに行くのかある意味賭けというか、ベータとVHSも、あれで袋小路になってしまったほうのものは、やっぱり後から見返すと面白かったりするしね。
——独創的だったもんね。一生懸命考えたんだろうな、友達いないんだろうなっていうイメージで。
ダイアナ:でも得てして頑張っているほうが負けちゃうっていうね。それにしても、今日、コーヒーの話、全くしてないわね。
——だって飲まないでしょ?
ダイアナ:私、わりと飲むかも。
チガ:私も飲むよ。こないだTORIBA COFFEEで豆買ったんだから。
——失礼しました。じゃあコーヒーの話を聞こう。
ダイアナ:いや、あの、でも私……ネ○プレ○ソなの。だって楽なんだもんアレ(笑)。
——1日に何杯ぐらい飲むの?
ダイアナ:5、6杯は飲んでいるかも。
——自分で淹れたりはしない?
ダイアナ:それはしないけど、家でも外でも口さみしくなるとコーヒー飲んじゃう。自分で淹れるとしたらどうすればいいの?
——美味しいコーヒーを淹れようと思う気持ちがあるならドリップがいいかもしれない。でも簡単なほうがいいなという感じだと、多分あんまり美味くねえなって思っちゃうのかもしれない。準備や温度について考えられるぐらいの関心があれば、ドリップで美味しいコーヒーを淹れられるようになると思います。
ダイアナ:ああ。ネルドリップとかはね、もう見ているだけで「大変ですね。頑張って下さい」って思っちゃうほう(笑)。
——まあ声かけられないもんね。なんか観ていて退屈してくるし、やっている人も何か楽しそうじゃない場合が多い。あれは何なんだろう。
ダイアナ:コーヒーもお酒も食べ物もそうだけど、講釈の袋小路というパターンってあるよね。
——焼肉もそう。ある有名なお店の社長とかは、眉間にしわ寄せてやっている。でもそんなに緊張感を出されちゃうと、何か食べれない(笑)。
チガ:私、一応朝起きるとコーヒーを豆から挽くんだけれど、ぶっちゃけ最初は面倒臭かったの。でも、そのぐらいのことをやれる自分でいたい、みたいなところがあって。そんな数分の時間さえも面倒だと思ってしまうような生活はイヤだなと思って。たまに意地になってやっている時もあるかも(笑)。
——電車の1本を乗り遅れたって、まあどうにかなるよっていう考え方ですよね。
小川:本当にどうにかなるし、何とでもなるから。何を優先するかだけの話だからね。ロバート・ハリスが何かで言っていたけど、コーヒーを1杯飲むっていうのは、別にコーヒーの味云々よりも、そこでちょっと休憩して、自分を見返すため、みたいなことを言っていて、そうだなと思ったの。そういう自分でいたいなっていう。そこで休憩しないで突っ走るより、ちょっとブレイクできる自分でいたいという感じかな。
ダイアナ:閑話休題というか、ここで改行みたいな感じね。スペースを空ける、みたいな感じで。
チガ:まさにそう。改行。何でもぎゅうぎゅうだと読みにくいし、意味が分からなくなるからね。
(プロフィール)
オガワチガ……東京出身。80年代にLONDONのゲイクラブにインスパイアされ、帰国後の1991年に日本初のWOMEN ONLYイベントをスタートさせる。90年代からゲイカルチャー発信のショップの運営や、アメリカのLESBIAN &GAY雑誌、ゲイフィギュアのディストリビューションを手がけ、LGBTのアイデンティティについて理解の普及に努めてきた。日本のLガールズ文化を発信し続けているイベント「GOLD FINGER」は25周年を迎え、同名のバーを新宿二丁目で経営中。www.goldfingerparty.com
ダイアナ・エクストラバガンザ……大阪出身。女装を趣味とし、上京後に銀座の高級クラブでホステスとして勤務を開始。マツコ・デラックスやミッツ・マグローブとの交友関係が契機となり、MXテレビ『5時に夢中』に出演。強烈なインパクトによってテレビデビューを果たす。
その後はホステスと並行して、タレント活動をスタートさせ、マニアックな知識で専門家筋から高い評価を受けている。現在、MXテレビ「大人の夜のワイドショー! バラいろダンディ」の金曜バーディとしてレギュラー出演中。