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2017.04.14 COFFEE PEOPLE ~ Vol.18 岡野弥生 × 渡辺豪 ~ 前編

毎月、各界のゲストとコーヒーを入り口に様々なトークを繰り広げていくCOFFEE PEOPLE。第18回目は“新吉原”という土産物ブランドのデザイナーであり“岡野弥生商店”のを営む岡野弥生さんと、日本初となった遊郭専門の書店・出版社の“カストリ書房”を営む渡辺豪さんをお招きしました。岡野さんは江戸時代の遊郭から始まり、今は日本一のソープランド街としてその名が知られている東京は吉原の出身です。色街の歴史を背景に、豊かな遊び心から生まれた艶っぽい土産ものが話題を集めています。一方の渡辺さんは、IT企業から出版・書店経営を始めて半年というユニークな経歴の持ち主です。今回はお互い身近な距離に店舗を構えているお二人に、起業のきっかけから経営論、エロティシズムの考察、そして今後の展望についてまで、大いに語っていただきました。前後編に渡ってお届けします。ぜひお楽しみください。

(聞き手:鳥羽伸博(TORIBA COFFEE代表)。写真:石毛倫太郎。構成:内田正樹)

 

男はエロに共犯者を作りたがる

——このコーナーはコーヒー屋の対談なのですが、いつもはコーヒーの話は特にしなくていいというのがテーマでして。でもあまりしないと、却って皆さんが気を遣われるようでして。コーヒーって飲まれます?(笑)。 

渡辺:僕、普通にセブンイレブンのコーヒーが美味いって思っちゃうんですけど。

——いや、あれは美味しいですよ。機械も良いと思うし、コーヒー豆はブレンドなんですよね。で、ちゃんとドリップの機械と合わせて作っているんで。他のところはどうしても元が商社だったりするので、まずコーヒー豆を押さえるところから始まっちゃってるんで。

渡辺:確かに他のところはアラビカ豆云々って言っているけど、セブンイレブンは何も言ってない。

岡野:そっか。そうですね。

——うちは焙煎屋という考え方のアプローチですが、コーヒー豆にすごくこだわる方は焙煎もその流れからくるのであまり焼かないというか、言わば新鮮な高級魚をお刺身で食べさせたがったりする。僕たちにしてみると、新鮮だろうが高級だろうが、焼きですよ?という考え方で……珍しくコーヒーの話をしているな(笑)。

渡辺:いつもそんなにもコーヒーの話をしないんですか?

——ほとんどないですね(笑)。じゃあセブンでよく飲まれるんですね。まあ渡辺さんのお店は、冬は暖を取るのが大事でしょうね。

渡辺:そうですね。

岡野:寒いからね(笑)。

渡辺:そもそも店を開くにあたって、床を上げるっていう概念が僕にはまず理解できてなかったぐらいなので(笑)。岡野さんが業者から言われたらしくて。「床を上げないとダメでしょ」って(笑)。

岡野:言われた。店舗を作る時に「寒いから絶対上げておいたほうがいい」って言われて。

前半3☆1X8A4443

——僕が渡辺さんのお店に興味を持ったきっかけはクラウドファンディング(※。カストリ書房では昨夏クラウドファンディングサービス“CAMPFIRE”で目標金額を50万円に設定して資金を募った)でした。何だか訳の分かんないことを言っている人がいるなあと思って。でも面白そうだったから一枚噛もうと思い、1万円を払いました。あれ、どのくらい集まりました?

渡辺:確か2週間で75万円ぐらいでした。

岡野:目標達成しましたよね。

渡辺:まあ50万に設定しておけばいいやと思ってやったんですけど。あの時はバックとしていわゆるプリペイドカードみたいなものを配ったんです。つまり1万円もらったら1万円分のカードを渡すんで一見プラマイゼロですが、僕からしたらそのお金で商品を買ってくれるので、商品が回るならそれでいいと思って。

——何か変わった人だなあと思ったけど、すごく頭がいいなと思いました。ただ、もしあの時に品揃えまで分かっていたら、僕は多分10万円払ったと思います。

渡辺:ありがとうございます。そんなに払っていただけたら、夜逃げしちゃったかもしれない(笑)。でも僕から言わせると、岡野さんのほうが変わっていると思いますよ。岡野さんの店を見て“あ、こういう人もいるんだ”と思った。会いに行って挨拶をさせてもらって。その時はまだ店を持つつもりは全く無かったんですけど。

岡野:(笑)。

——お二人ともいい場所に店をお持ちですよね。

渡辺:面白い場所だとは思うんですが。

岡野:私は地元だけどね。

——渡辺さん、地元はどちらなんですか? 

渡辺:僕は福島県なので、東京には縁もゆかりもないんです。

——そういえば、この間、浅草の寿司屋で偶然隣り合ったおっさんが「フィリピンパブでは白河市にある店が、一番格が高い」って言っていましたが(笑)。

渡辺:北関東って、そういう東南アジア系のコミュニティがあるんですよね。同じように飲食店とかバーとかスナックとかが、パチンコ屋の居抜き物件みたいなのを使ってやっていたりするみたいで。

——フィリピンパブはあまり興味ないですか?

渡辺:いや、好きですよ。頑張ってるなあと思います。だって自分だったらできませんよ。いきなり言葉を知らない国に行って働くなんて。あのエネルギーはすごいなあと思います。

——地方都市のフィリピンパブって、会話にワンフィルター通した感じがあるというか。例えば福島なら「震災、大変だったでしょ?」と言う時に、日本人のそれとはどことなく違う感覚になる。

渡辺:そういう意味では、国籍が異なるゆえに向こう側もこちら側もいきなり懐に飛び込める感じは楽しいかもしれないですね。

——僕がいわきの店を訪れた時は、たまたまカレンちゃんという子がセブ島に帰る送別会だった(笑)。店の中に“さよなら、カレン”って書いてあって。もちろんこちらはカレンちゃんのことを全く知らないんだけど、みんなえらくウェルカムで(笑)。見たこともないフィリピン料理を持ち寄って「食べろ」って。で、最後にカレンちゃんが山口百恵の歌を歌って白いマイクを床に置いたんです(笑)。もう日本人より日本人らしい感じで。

一同(笑)。

——渡辺さんはお店を開いてどのくらい経ちましたか?

渡辺:去年の9月からなので、半年ぐらいですね。

——お客さんや在庫の様子はいかがですか?

渡辺:リピーターになってくれる人もちょっとずつ増えてきていますね。オープン時は6割ぐらいが女性だったんですが、リピーターも8割9割が女性です。もっと女性率が高くなると思います。

——どんなタイプのお客さんですか? 

渡辺:真面目な話をすると、お客さん自身もそこまで自己分析できているわけじゃないと思う。何を探し求めているのかは、自分でもあまり意識していない。何となく「遊郭」には興味がある。聞いたことある。もっと知りたいんだけど、でも何から読んでいいか分からない。専門店があるんだったら、ちょっと覗いて聞いてみようか。そういう人が大半じゃないでしょうか。それはそれで僕にとっては成功だと思います。

岡野:どんな本が売れ筋なんですか?

渡辺:文字じゃなくてグラフィカルな本ですね。女性は買うまでが早いんですよ。男性はじっくり探すけど、女性は店に入って4、5分ぐらいで1万円分ぐらいの本をを、ぱぱぱっと見繕って買っていく。

——ちょっと前で言うところのエロ本を買いに来る感じなんでしょうか? ぱぱっと勝負をかける感じとか。

渡辺:本を買うときには恥ずかしそうな素振りはないですね。ただ、入店するのはハードルがあるらしく、店の前を一度通り過ぎてから入ってくるお客さんも多いんです。通りがかりというパターンは皆無に等しくて、みなさん事前に調べた上で、店を目掛けて来るので、ネットを上手くプロモーションに使わないとダメだなあって思います。

——近所付き合いはどうですか?

岡野:近くのお寿司屋さんとかと仲がいいよね?

渡辺:そうですね。そこのお父さんが赤線経営者で、売春防止法が施行される前に足を洗って寿司屋を始めたという方がいて。

岡野:店の作りが変わっているんだよね。

渡辺:赤線のカフェー建築っぽい。

岡野:カウンターの下が変に出っ張っていて、膝が当たるの。

渡辺:蛇口みたいなのがあって、手を洗いながら立ち食いで寿司を食べられる。つまり昔は立ち食いにするぐらい、吉原の周辺にあった飲食店は混んでいたんじゃないかと。

——なるほど。僕は2015年に渡辺さんが手掛けた『白線の女』(※中村三郎 著。渡辺豪 復刻編集。カストリ出版 発行)という本を新宿二丁目の模索舎で買ったんですが、あれは僕の人生を変えるぐらい衝撃的な本だったんですよ。渡辺さんが手掛けた本というのは後からうかがったんですけどね。

渡辺:ちょっと説明すると、売春婦の人たちが捕まっちゃった後に、聞き取りした内容の本でして。彼女たちの生い立ちか、なぜ売春をやるようになったのかを調べたおじさんがいて。

——要はそのおじさんが淡々と感想を語るのが面白い。嘘を言っている人とか、自分をよく見せようとする人だとか、被害妄想の強い人とか言い出す。僕はてっきりノンフィクションだと思って読んでいたのに、終盤で突然ぱっと“全部嘘だった!?”みたいな一言で締める。

渡辺:そうそう(笑)。著者が最後に梯子を外すんですよ。

岡野:何だか面白そう(笑)。

——あの本はなぜ復刻を手掛けたんですか?

渡辺:やっぱりああいう本は他になかったから。決して評価が高いわけでもない、地味な本だと思いますが、そういう反応をもらえると嬉しいです。著者自体は文学界では完全に無名のままで終わっちゃった人ですが、吉行淳之介に自分の通っていた赤線の女を紹介して、彼が一連の赤線をテーマにした作品を書き始めるきっかけを作った人なんですね。掘り起こしてスポットライトを当て直したらおもしろい人がいたという発見も、あの本を自費出版で作るきっかけにはなりましたね。

——自費出版ということは、当初は趣味みたいな感じで?

渡辺:いえ。最初からビジネス化することを視野に入れていました。ただ、僕はそもそも会社員で、それまで出版業に携わったこともなかったので。

——プロフィールにはIT系とありますが、どんなお仕事を?

渡辺:それこそ最初はガラケー時代の公式サイトを運営するような仕事でしたが、スマホ時代がきたら立ち行かなくなったのでアプリを作って、その中に表示させる広告を最適化するようなツールを提供して。後半は広告代理店に近いような仕事になっていたし、自分自身の立ち位置としてはデザイナーから入ってディレクターみたいなことをやって、最後は総務のように何でも屋みたいなことをやっていたという感じですかね。

——当時ガラケーのアプリを作られていた時に、次にスマホの時代が来るな、とかは読まれていたんですか?

渡辺:そういう情報は自然と入ってきますからね。それこそKindleがきて電子書籍が賑わい始めた時も絶対売れないなと思いましたし。出版する側から見ると、Kindleのほうが在庫リスクないし、初期投資もかからないんだからそのほうがいいじゃないかと思われるかもしれませんが、あれはこのタイミングでは絶対売れないと分かっていたので、紙を選んだんです。紙にパッケージされた本に対してお金を払う行為って、不況とはいえまだまだ習慣化されているじゃないですか。

——Kindleはなぜ売れないと思ったんですか?

渡辺:モノを欲しがっている人がまだまだいると思ったので。例えばアメリカで大きなロックバンドがコンサートの入場料を無料にして物販だけで収益化しようとしている、みたいな話を聞くとすごく分かる。まだまだみんなファン行為として物体を欲しがるんですよね。

——なるほど。緻密な計算があったわけですね。

岡野:渡辺さんはすごく考えているよね。

渡辺:読み違えることも多いんですけどね(笑)。

——僕と渡辺さんは同じ昭和52年生まれですが、僕らの十代の頃って、他のことには躊躇がなくても、エッチなビデオを借りることに堂々としたかったようなところがありましたよね。

渡辺:うん。男はエロに対してストレートでしたよね。幼いというか。男は最後までカッコつけたいというか、うちの店でも、やっぱり男の人は「今となっては貴重な資料だね」みたく理知的なコメントをする。でも女の人は逆で、もう最初から面白いという反応をして、昔の遊郭の資料なんかを見ると「自分ちの近くに遊郭があった!」、「自分がこの時代に生まれていたら絶対に遊びに行くのにな」みたいなことを言うんですよ。そっちのほうが素直だと思います。

——そうですよね。男はエロ本を買う時はこそこそするくせに、仲間がいるとちょっと気が大きくなる、みたいなところがある。エッチな場所に行きたければ一人で行けばいいものを、すぐに共犯者を作りたがるというか。女性ってその辺りは……。

渡辺:僕も分からないですね。岡野さん含めて女性がエロをどう捉えているかというのも、僕は全く分かっていない。

——じゃあ今日はこれからその辺も深く聞いていきましょう。

岡野:(笑)。

前半1☆1X8A4391

そこにしかない場を作れば人は集まる

——例えばストリップに行こうということになる。男性は「え~」と言っても必ず来るけど、女性は最初から「行きたい!」って言いますね。

岡野:それはエロというよりも面白いという感覚のほうが強いからかも。だって男性向けのエロじゃないですか。

——男性向けのエロは女性にしてみたらあまり興奮しない?

岡野:綺麗か綺麗じゃないかで分かれるかも。あとは、「こんなので興奮するんだ?」って、ちょっと男性をバカにしているところもあるかも(笑)。

——そっかあ。

岡野:ソープのマットプレイもそうだけど、こちらから見ると何か笑っちゃう感じで。エロさはまったく感じない(笑)。私の知り合いに、スケベ椅子のプレイがアザラシのショーみたいだからどうも好きじゃないという人がいますけど(笑)。

——なるほど(笑)。つまり女性に「エロって何ですか?」と問うたら、おそらく男性とは全く違う角度から答えが返ってくるわけですね。

岡野:ビジュアルとかじゃないかもなあ。匂いとか、そういう感覚的なものだったりとか。

——でしょ? あとは腕の筋肉がどうだとか首絞めるとか? よく分かんないけど(笑)、そういうことに興奮したりする人もいるわけでしょう?

渡辺:俺も女性の興奮するポイントは分かっていないですね。ただ緊縛に興味を覚える人は多いみたいですが。あれこそ男から見たら自由を束縛されているだけに見えちゃうんだけど、女性は、人によってそこにエロティシズムを覚えている。やっぱり理解し得ない差があるんだろうなと思いますね。

——最近は言葉攻めとか放置プレイという言葉があまりに当たり前に使われる。でもこれって本来はかなり高度なSMプレイであるはずで、そんなに軽々しく口にする言葉じゃないはずだと僕は思っているんですけど。

一同(笑)

渡辺:そう言えばこのあいだ鶯谷に行った時に、ビルから短パン一丁で出てくる男の人がいて、後ろに女王様的な人が付いていましたね。多分そういうプレイの最中だったのかな。

——でもそこって当然お金が介在しているわけで、気持ちは共有してないですよね。

渡辺:どうなんでしょうね? 女の人から見たらバカだなと思っているかもしれない。

岡野:お金にしか見えてないかもしれないし。

——こういう話ってたぶん以前はすごくニッチな世界だったはずだけど、今やニッチでもなくなってきている。例えば僕はコーヒー屋として、世間に理解されるのがかなり難しいことや、批判で勝負をかけなきゃいけない時があって。でもそれがマイノリティかと思いきや、マジョリティではないけどそんなにマイノリティでもなかったことがある。最近そういうことがすごく多いなと思う。僕にとってお二人ってすごくニッチに見えて、実はそんなにニッチじゃなくなってきちゃっている部門の代表選手という感じがするんですが。

渡辺:どこまで周りの理解を求めるかって、特にスタートラインにおいてはすごく難しいですよね。例えば僕や岡野さんがやっていることを、開業する前に企画書に落としこんでも、面白くは見えないと思う。存在しないものを企画書に書いても面白さは伝わらない。でも作ってしまって実体があれば、周りが面白さに気づき始める。そう思ったから、自己資金で始めてしまおうと。その後に道が出来て、お金も付いてきたという感覚ですね。

岡野:あとはブレなくていいのかもしれない。自分の考えだけで全部やっているから(笑)。

——スポンサーがいたらああしろこうしろと言われちゃうわけですからね。

岡野:そうそう。そしたら変わっちゃうと思うし。

渡辺:岡野さんの作っているものは、最初は正直ピンとこなくても、数ヵ月後に“ああ、なるほどな”と思うものが多いんですよ。

——岡野さんはどのような経緯でこのお店にたどり着いたんですか?

岡野:最初は作業する場所が必要だったんですよ。手拭いを切ったり畳んだりする場所が(笑)。土産物屋をやろうと3年前から始めて、段々在庫を置く場所が必要になってきて、場所を作るならもったいないから半分をお店にしようと。それでお店にしたんです。

——その前は編集のお仕事をされていたんですよね?

岡野:そう。渡辺さんではなく私のほうが元出版業で(笑)。ファッション担当の編集者として、幾つかの雑誌を転々として。仕事内容はファッション撮影がほとんど。そういう仕事をやっていくうちに、オシャレな人たちの集まりの中では、割と東京の東側ってバカにされてるなと思って(笑)。

——バカにはしてないでしょうけど、その被害妄想的な気持ちも分かる(笑)。

岡野:それでムカついたので何か地元でやろうと思ったの。だからエロは後付けなんです、私の場合は。地元が艶っぽかったというだけで(笑)。

渡辺:土産物はどういう着眼点から?

岡野:最初は飲食店も考えたんだけど、吉原で飲食店は難しいなと思って。駅からも遠いし、女の人も来にくいし。それで土産物のようなグッズだったらいいかもと思って。私も土産物を集めるのが好きだったし、デザインできるかもと思って。

——最初は手拭いから?

岡野:ううん。ペン(笑)フローティングペン。ヌードペン(※逆さにするとペンのボディの中の女性の服が脱げる仕組みの土産もの)がすごく好きで、でもヌードペンってだいたい写真だから、それはちょっと難しいなと思って、中が動くやつにして。ブランド立ち上げ当初は、地元の会社で働きつつやっていたんだけど、店を開くんだったら辞めないと無理だって思い辞めちゃった。編集者になったのも流れでなっちゃっただけだったし。

——その辺をもう少し詳しく聞いてもいいですか?

岡野:私は高校を卒業後、1年半ぐらいイギリス行っちゃったんですよ。高校生の頃、海外バンドの追っかけやってて。ライブに行くのが好きだったんだけど、お金そんなに持ってないから、会場前とかでアーティスト本人にお願いしてタダでライブ見せてもらうっていうのをやっていて、その追っかけの延長で海外行っちゃった。

——岡野さんと僕は同じネブワースのフェスに行っていたんですよ。1996年のオアシスが出た時のやつ。あの頃はブリット系のバンドがいっぱいありましたからね。オーシャン・カラー・シーンとかブラーとか。

岡野:アイドルっぽい感じのバンドが多かったんですよ、ブリットポップって。そうするとやっぱり追っかけが多い。けど私は途中でアメリカのバンドに乗り換えて(笑)。グランドロイヤルが好きだったから、ビースティ・ボーイズとかそっちのほうに。で、ロンドンから帰ってきた直後に知り合いに「バイト来ない?」って言われて、女性ファッション誌の編集部に入ったんです。そこで編集者になり、10年ぐらい働いた後に、別のファッション誌の立ち上げで広告営業のアシスタントやったり、ウェブマガジンの立ち上げメンバーとしてまた編集やったり。

——なるほど。

岡野:地元で何かやりたいのに、こんなにしょっちゅう編集に戻っていたらダメだと思って(笑)。で、何かサービス業を体験しておこうと思って、都内の某ホテルでバイトしてみたんですよ。クローク、ウェイトレス、シェフのアシスタントとかやって。そしたらシェフに気に入られて、シェフのアシスタントを半年ぐらい。コックさんの格好をして(笑)、エビの殻を剥いたり茄子を洗ったり、下ごしらえ全般をやっていました。その後、地元の糸屋で働いて。そこで働き始めたのと同時に“新吉原”というブランドを始めたんです。

——あのエロの感じは自分の欲求からきているのではなく、本当に地元ありきの後付けだったんですね。

岡野:ふふふ(笑)。吉原なので、浅草とも差別化するようにエロ要素を入れて。

——渡辺さんはエロの要素については?

渡辺:僕も違いますね。遊郭というテーマに惚れ込んでいるけど、遊郭は素材で、僕はその素材を扱う人間だと思っていますから。

岡野:私たち、エロいわけでもなくて(笑)。渡辺さんからもエロさって全く感じないしね。多分本当にエロい人はできないかもしれない。エロ過ぎると意識し過ぎちゃうんじゃないかな。

——でも、どことなくお二人はエロくあってほしいとは、たぶんお客さんなりクライアントさんは思っていると思いますよ。

岡野・渡辺「ああ……うーん……」

一同(笑)。

岡野:出そうとしてもエロさが出せない(笑)。

前半2☆1X8A4411

——一方で渡辺さんは4、5年のリサーチ期間を経て、お店を開けたんですよね。

渡辺:そうですね。僕も岡野さんと似ていて、作業スペースが欲しかったし、在庫を抱えるので置き場所も必要だったので。他の店と何が違うのか?とよく聞かれるんですが、まあ遊郭専門書店というのも特徴ですが、大きな点は自分で出版もするというところなんです。仕入れて売っているんじゃなくて、自分で作っているものを売っているので、売り場を作ることが最も強みになるはずだという読みはありました。卸しだとその分だけ下代が下がっちゃうので、自分で売ったほうが粗利益率が高くなるので。

——そこにITをかませるという考え方は?

渡辺:一番、ITが役に立っているのは集客ですね。他の版元さんはいまだに新聞広告とか自社媒体の紙広告を使っていて、それはそれで悪くないけど、ネットっていう感覚がすっぽりと抜け落ちている。だからこそ自分が切り込める隙間だと思うので。

——クラウドファンディングもそのセンスがあったからすぐに動けたんですね。

渡辺:そう思います。

——自費で復刻出版される本を選ぶ際の基準というのは?

渡辺:考え過ぎても策に溺れてしまうと思ったので、我を消していったほうがいいなと思って。古書業界には歴然たる相場があるので、自分の価値観を投影するんじゃなくて、その古書相場で高い本から作っていけばいいじゃん?っていう感覚でしたね。

——フラットに対相場なんですね。お店を開店させる街は絶対に吉原だと思ったんですか?

渡辺:はい。そうですね。元々住んでいたんですよ。店の30メートルぐらい裏側とかに。僕は2年契約で部屋を引っ越すようにしているんですけど、風俗街のイメージのせいか、すごく安かったので。住んでみたらすごく住みやすかったし。今からカルチャー系の本屋を開く時に、中野とか高円寺でやるっていうのが一番面白くないと思ったので、だったらここでやっちゃえばいいじゃんと。遊郭専門の出版をやるわけだから、販路としても遊郭の近くに置いたほうが何より伝わりやすいし、賃料なんかも安いし。東側が今後面白くなるという感覚は最近も強くありますね。

——集客に不安はなかった?

渡辺:なかったです。例えば自分がトークイベントに出演すると、例えば京都で開催すると九州からお客さんが来てくれるし、東京でやったら京都や大阪から来てくれるので。ここにしかないものを作ってしまえば、別に駅から5分かかっても10分かかっても関係ないと思いましたね。まあ雨の日はお客さんが少なくなるので、そういったデメリットは感じるっちゃあ感じますけどね(笑)。

岡野:私のお店に人力車で来た人がいるんですよ。交渉してすごく安く来られたみたい。日本人の女の子が二人で。だから人力車と組むのもいいかなと思って。

渡辺:それはいいですね。

岡野:カストリさんも一緒に回ってね。

渡辺:岡野さんはこういう目の付けどころがいいんですよね。

岡野:何も考えないで喋っているんだけどね(笑)。

——岡野さんのお店の客層は?

岡野:最初は男の人が多かったですね。でも今は半々ぐらいになったかな。最初みなさん私のことを男だと思っていたようで。メディアに顔が出るようになって「あ、女性なんですね」ってよく言われました。新聞に取材記事が載ると、おじいちゃんが異常に増えるんですけど(笑)。だから10代後半ぐらいの大学生とかからおじいちゃんまで幅広いですね。

——つまり若い方はネットで、ちょっと上の世代は新聞に反応するんですね。

岡野:そうそう。大事に切り抜きを持っていらして。

渡辺:まだまだ紙媒体を信頼しているんですよね。権力はなくなっても権威は残ってる。

——では次回はお二人がどんな子供時代を過ごしてきたか訊いて行きたいと思います。

 

(次回に続く)

 

岡野弥生……東京都台東区生まれ。出版社に勤務した後、2014年夏、自身のブランド“新吉原”を立ち上げて、土産物の企画販売をスタート。2016年6月に岡野弥生商店を浅草にオープンさせた。

岡野弥生商店……東京都西浅草3-27-10-102

12:00〜18:00 不定休

新吉原:http://www.shin-yoshiwara.com/

 

渡辺豪……出版・編集業、書店主。IT企業でデザイナーなどを務めた後、2015年に遊郭に関する書籍を発行する“カストリ出版”を創業。2016年9月に自身の出版物を中心に扱う書店“カストリ書房”をオープンさせた。

カストリ書房……東京都台東区千束4-11-12

10:00〜19:00

無休(臨時休あり)

カストリ書房:https://kastoribookstore.blogspot.jp/

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