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2016.10.07 COFFEE PEOPLE ~ vol.14 小林節正 ~

ファッション手前のツールのように

毎月、各界のゲストとコーヒーを入り口に様々なトークを繰り広げていくCOFFEE PEOPLE。第14回目は小林節正さんを迎えてお送りします。
小林さんは、“General Research”を経て、2006年から“……Research”としての活動に移行、“Mountain Research”を筆頭に様々な「リサーチ」名義によるブランドを手掛けています。同時に松浦弥太郎さんと古本屋“COW BOOKS”の経営者でもあるのです。
今回はそんな小林さんが抱くデザインに対する理想やマイペースな経営論、そして自らの考える“カッコイイ”の正体などについて大いに語ってくれました。きっと多くの“気付き”に恵まれるテキストだと思います。ぜひともご覧下さい。

(聞き手:鳥羽伸博(TORIBA COFFEE代表)。写真:荒井俊哉。構成:内田正樹)

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――小林さんは「ご職業は?」と訊かれたら、どう答えているんですか?

「会社経営」。だって一番大事だもん。

――多分「ファッションデザイナー」とは答えないんだろうなあ、とは思っていましたけど(笑)

普通デザイナーで、好きなことを何十年かやっていれば、視点や嗜好みたいなものはおのずとウロウロするわけで、結果、その時々に応じた変化とか変遷があるはずなのね。ところがどっこい、俺、小学校の高学年あたりから何も変わっていないんだよ(笑)。好きな質感とか、気になることとか。人並みに「ああ、いろいろと好きになっちゃって大変だったなあ」なんて思ってみたりして、いざ振り返っても、「あれ、いろいろねえじゃん!?」って(笑)。

――(笑)。

だって小学校の頃にやっていたアメリカの連ドラで、ロサンゼルス市警の警察官とパトカーが出てくる『アダム12』(※=『特捜隊アダム12』。日本では1970~73年に放送)というのがあったんだけど、そこに出てくる人たちは、開襟シャツの中のTシャツの丸首が、首の上のほうまでバキーンと出ているわけ。絶対に緩んでなくて、もうすげえカッコよくてさ! まだTシャツなんか誰も着てなくて、「ランニング」とか「開襟シャツ」とか「Yシャツ」とか…そんな言葉で洋服を着ていたような時代なものだから、なんかあの真っ白で伸びないVゾーンにはグッときたんだよね。

――そんなに伸びないんですね。

伸びない。なんで伸びないんだろうな、と思ってしまうくらい! 昔、渋谷の麗郷の前に掘っ立て小屋みたいなお店があったの知らない? 4軒ぐらい並んでてさ。そこでFRUIT OF THE LOOMのTシャツとか買ってみたりすると、2回目ぐらいの洗濯で首が伸びちゃって……もう全く前の状態じゃないわけ。「何だよこれ!? ああ、アメリカン遠いなぁ」みたいな(笑)。

――(笑)。

あと、当時のソックスって、いちばん上がロールし始めるとぶよぶよになって垂れるのに、垂れないじゃん? アメリカの人たちのは。そもそもソックタッチで押さえてること自体、不名誉っていうか(笑)。

――まあ本質的な解決じゃないですからね(笑)。

ありえないよ、ああいうごまかし方は。おかげで靴下とTシャツって、俺にはもはや日常的ディテールの神髄なんだけど……あ、コレ、ファッションよりももっと手前の話ね。だから自分で洋服屋を始めてからも、ずっと首が伸びないTシャツにトライアルし続けていたし、ソックスも絶対に上のところがくるくると外に丸まらないようにってね。

――たしかに小林さんのところのは、そうならない。だから僕にはキツくて着られない笑。

当時……90年代とか……評判悪かったんだよー、ウチのTシャツ。あの頃に流行っていたオシャレなブランドと比べると、縦と横のプロポーションが変わってて、要はスマートに見えないから。でも、別にTシャツってスマートに見えなくてもいいじゃん?個人的には、少しツールっぽい感じ、とでも言えばいいのかな……。ファッションに寄り過ぎない余白みたいなところを残しておいたほうが長く楽しめるんだよね。そもそもシルエットのことなんかどうだっていいんだ。鳥羽、ごめんね!(笑)。

――(首元を触って)ここさえ守れたらいい、と(笑)。

(笑)

――小林さんとこのTシャツは、タグに“ORGANIC COTTON, So What?”書いてあるじゃないですか?

うん。オーガニックのやつにはね(笑)。

――あの感覚、すごく分かるんですよ。コーヒーもよく訊かれるんですよ。「オーガニックの、ありますか?」とか。「はぁ?」みたくなっちゃう。

わかるわかる(笑)。「だから何さ?」って。なんか能書きってマズいよね、この時代。最初はモノを売る側のほうの専売特許だったのに、今や立場が逆転しちゃってるでしょ?

――“牛、一頭買い!”とか掲げている焼肉屋で美味しかったためし、まあないんですけどねえ。

そうそう。説明とかいらないんだよね。だって踊りに出掛けた先で、「次に○○かけますからね~」とかDJにいちいち言われるのと一緒でしょ? そんなの別にうれしくもなんともない。挙句、一時どこだったかのホテルのレストランで(食材の)産地が全部嘘だったとかいう話があったの知らない?言われるほうも待ってりゃ、言うほうもデタラメだったっていう(笑)。

――どうも世の男性って、元来そういう後ろ盾みたいなのが欲しかったりする傾向があるじゃないですか。要は「キムタクが着てる」とか「どこそこ産の何とかコットンを使ってる」とか。

保険みたいなもんなんだよね。

――僕、小林さんのとこのシャツ(※胸元に動物の刺繍が施されている)を着ていると、銀座界隈の女性にウケがいいんです。それはとてもうれしいことなんですが、でもたまに「それ、ブレーメンですよね?」という、ちょっとムカっとくる一言に出くわすことがあって。

ああ(笑)どこかで見聞きしたような記憶があるけど、他社のシャツでブレーメンのパターンのやつは実際にあるみたい。それと勘違いして、買い来る人たちも居るとか居ないとか。

――――でもそれも違うでしょう。だってブレーメンは牛連れてないじゃないですか(笑)。と、いうかよく見りゃわかるし。よく見ないでその発言というのもまたムカっときて(笑)。だから「食物連鎖らしいよ」とか返しておくんですけど。

違う違う!ウチのは日本の山で見る動物たちなの。

――いま初めて知った(笑)。小林さんのブランド作りであり“.……Research”の考え方って、ちょっと天邪鬼ですよね。

そうかも……。投げてもらいたいところには球を投げないというか(笑)。

――でも、やられていること自体は素直ですよね。ただやり方が素直じゃないだけで(笑)。

うん。あと屁理屈が多い(笑)。そこが海外に売りに行く気が一切湧かなかった最大のポイントでもある。屁理屈ずくしでうまいことやってきたものだから(笑)。俺は、一からデザインの線を引くっていうことに関しては、何のプロ意識もなくてね……むしろ、既に引かれている線の向きをちょっと変えたりするのが好きなだけなんだよ。でも自分としてはそこがすごく大事なポイントだったりはするんだけどね。

――分かります。

俺ね、洋服屋は門外漢だけど靴屋はプロなの。靴工場の息子だから、職業的なプロ教育をされてきたしね。でも洋服のことになると急にプロフェッショナルではなくスペクテーターな感じになる。つまり観客目線だね。だから服のビジネスを始めると、実にたくさんの盗用とか借用を繰り返すことになるんだけど…(笑)。

――盗用と借用。なんかちょっと前に流行ったテーマみたくなってきたぞ(笑)。

そうそう(笑)。でも別に後ろめたくないの。そもそもプロとしてやっている意識が薄かったから(笑)。ヴィヴィアンのこれ持ってきて、ラルフローレンのこれ持ってきて、なんとなく潰して叩いてみて、こんな感じになると面白くない?みたいな感じだった(笑)。最初からずっとそんな感じ。

――あの、これって書いてもいい話なんですか?

もちろん。一時なんて、某社のそのまま(笑)。ちょっと変えりゃいいものを刺繍だけやめといてあとはまるっきりそのままとか。でもさ、そういうのが着たかったんだ。わかるでしょ? 「ここだけこうなりゃ最高なのに……」って。

――(笑)。

古着を好きだった頃も、すごく好きなものだから買うわけでしょ? 買うっていうことは、その時の気持ちのムードが現れている。だから仮に自分で作るにしてもほぼアレンジはなし。自分の線になんてしない。といって、コラボじゃないけど、オリジナルの会社に行って作ってもらおうなんてこともさらさら思わないんだよね。

――人はとかく目立ち始めると「自分がクリエイトしているんだ」みたいなエゴが出がちじゃないですか。僕はコーヒー屋なのでその身から言わせていただくと、海外で育ったコーヒー豆を買ってきて、日本で焼いて売るんですが、このプロセスのなかに、クリエイトできるポイントって、実はひとつもないんですよ。焼き方と言ったって、料理のシェフみたく組み合わせで新たな世界をどうこうというのに比べたら極めてベーシック過ぎる話だし。だからエゴの出しようもないというか。

そういうエゴが好きな人って、オリジナルを提示していく側に向かっている自分のことが好きなわけだからそういう演出になるんじゃないの? でもメンズファッションって……まあそんな面もあるよね(笑)。世の中にシャツのデザインは山ほどあるのかもしれないけど、ざくっと言っちゃえば、どれもこれもひとつのシャツなわけで(笑)。Tシャツもそう。こっちが一生懸命になっているほどの差って、そんなにないと思うんだよね(笑)。

――(笑)。

ただ、どんな瞬間にもカッコイイのか、悪いのかは、はっきりしているよ。大差ないことが前提でも、やっぱり誰がどう着るかによって、もうめちゃくちゃカッコよくなったりするわけじゃん? さっきのファッション手前のツールっていう話でも、着方さえカッコイイ人を見れば、それはもう一目瞭然でカッコイイ。そういう、ものすごく厳然たるカッコよさと、何だか曖昧な世界が共存しているんだよね、ファッションって。

――小林さんの中でのカッコよさを伸ばせると思うような、理想の人やイメージってあるんですか?

ない。だから俺はなるべくシルエットもツールっぽいところにとどめておくことにしてる、ファッションマーチャンダイズ方向に向かわないように心がけながらね。(動物の)刺繍なんかは、アクセサリーみたいな色付けでありベーシックなものだから、わかりやすいものをくっ付けているだけ。あとは……いじり過ぎないってことかな。ボタンダウンだったら60sとか70sの頃の感じはいじらずに、今着れるものにするみたいな感じ。行き過ぎて戻れなくなるまでいじったりはしないよ。

――ああ、よくありますよね、戻れなくなっちゃうやつ(笑)。

あるでしょ? もう完全に戻れないやつ。作家のことを形容する時に、川岸から手が離れない物書きと、川岸から手が離れて自由に泳げる物書き、という言い方があるけど、例えばヘミングウェイは手が離れないタイプ。 それはマッチョという或るフォーマットから手が離れないってことなんだけど、でもそれこそがポイントなんだよね。そのひねり方って言うのかな……絶対に戻って来れるようにしておくことは大事だよ、岸から手を離せる程の才能は自分にはハナっから無い。

――特にそれは背骨というかコアの話ですか? それとも立ち位置の話ですか?

ただウロウロしているだけ(笑)。そんな自分なもんだから、戻れるようにはだけはしておきたいんだね。

――何なら首輪も付けておく、みたいな?

そうそう!(笑)。

 

長い間、続けたい。同じ場所で、景色になるまで

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小林さん自身は現在のご自身の立ち位置をどう把握されているんですか?

まあファッションでしょ!?(笑)。で、多分、意外と老舗。あと、いつまで経っても大きくならない(笑)。

――こう在りたいという理想のようなものは?

長い間、続けたい。それもいまの場所(※東京・中目黒)
で。ちゃんと景色になれるまでやっていたい。

――小林さんはCOW BOOKSという古本屋さんもやっていますが、あれはどういうモチベーションから?

本屋はずっと昔から夢だったんだ。でも経験とテクが何もなかった。そうしたら松浦弥太郎君と知り合って。彼はその当時、予約制の本屋をやっていたの。KIKI(※クリエーターのマネジメントオフィス)の玄関の横を借りてね。それで、共同でトラックの移動販売本屋をやろうって話したのがはじまりだった。俺はムードが好きなだけで、別に本だってそんなに量を読んでいるわけじゃない。さっき言ったように、いつもウロウロしているものだから……(笑)。ついつい古本屋みたいな仕事にも憧れるわけさ。

――なるほど。僕は最近、下北の古本屋さんを覗いたら、欲しい本がいっぱいあったからいっぱい買ったんですでもブックオフとか行っても全然買わない。古本屋でも、店によっては全く欲しい本がない。つまり逆に言えば古本である必要もない。ということは。古本屋さんって、やっぱりセレクトショップなのかなって。

全てその通り。いま鳥羽が言った同じことを松浦君も言ってたよ。彼に言わせると本屋のビジネスの根幹は「セレクションです」と。セレクションを売っていて、同時に一冊一冊を売っているわけ。例えば三冊の同じ本が並んでいるとする。状態が違って、値段が違ってもいいから、とにかくワン&オンリーじゃなくて平積みの本屋みたいな古本屋があってもいいよねという考え方。そんな具合に最初から話が噛み合ったものだから、「ああ、この人とはずっと一緒にできるな」と思った!二人で共同運営して、かつ、俺が口さえ出さなければうまく行くって思ったよ(笑)。

――揉めたりすることは?

揉めるほどお互いのことを好きじゃないんだと思う(笑)。だって彼、俺ん家に来たこと、プライベートで一度もないし、俺も彼ん家にプライベートで行ったことがない(笑)。それでも「絶対に大丈夫!」と思える人って、たまにいるんだよね。だから仮に彼が「もう辞めたい」と言ったら、明日にでも辞められる、俺には運営はできないからさ。でもさっき言ったように、わざわざ路面店でやっているのは、景色になりたくてやっているの。だから景色になれるまでは辞めたくないなって思ってるけどね。

――小林さんのなかで儲けとかお金についての考え方というのは?

お金は回ってさえいれば大丈夫。あとは風まかせ(笑)。好きな洋服とか靴のサンプルなんかを世界中で買えて、さっき言ったように借用とか盗用を繰り返してさ(笑)。そしていくばくかのリターンがあればそれでいい。あとは、それを後ろめたく感じないシステムで暮らすってことかな。

――そのシステムを維持するための術は?

会社を大きくしないこと。

――やっぱり僕はだいぶ小林さんに影響を受けていたんだなと今日分かりました。

とにかくウロウロしていたいんだよね。軌道に乗り始めちゃうと、自分の勝手で、システムをこう変えてとか、ちょっと言いづらいじゃん。自分で駒が動かせれば、なんとなく飽きないというか……商売が大きくなって人の手に渡り始めちゃうと、何も動かせなくなって景色も動かなくなっちゃうから。それって、一番飽きさせる状態だからね。動かなくなっている景色には、もはや自分はいなくたっていいわけだから。

――小林さんは現在の“……Research”の前に“General Research”をやられていたけれど、止めましたよね(※2006年)。人気のあったブランドの看板を下ろすのって。勇気の要る行動だったと思うんですが。

うーん、まああれ以上やってもしょうがなかったんだよね。ジェネラル(リサーチ)を止めて、最初に手をつけたのがマウンテン(リサーチ)だったんだけど、ジェネラル(リサーチ)からマウンテン(リサーチ)へ移行しつつも続けてゆくという過程の中で、一番のポイントだったのは、具体的な「場所」というものを設定をしたかったってことなんだ。その場所はつまり、名前のとおり「山」。それも日本の山、あるいは日本の山の周辺……山間(やまあい)だったり、集落だったり、白樺の森だったり…これを機に街を出て、そんな景色を見にいきたかったんだよね!やっていることは一緒なんだけど、その背景を変えたって感じかな?看板は下ろしてないんだけど、看板の向きは変えました、的な(笑)。

――道具としての洋服を作り出そうという意識は?

そんなことは絶対できない。そもそも道具を作れるほど、こっちはものを深く知ってるわけじゃない。謙遜して言ってるんじゃ無いんだよ。当たっていくのではなく、すり抜けていくという考え方でやってるものだから、そこまで一生懸命ってわけじゃないんだよね(笑)。例えば建築の話に置き換えてみるとさ、自分のはあくまで建築の手前の話っていうか、建築以前の次元とでも呼んだらいいのかな……。必要に応じてパッチを当てたり補強をしていくっていう「ほったて小屋」のような仕事。基礎を学んで一から作り上げてゆくなんてもってのほかで、あくまでもほったて小屋志向なんだよね(笑)。建築が好きなことに変わりはないんだけどさ。

――分かり易いですね。

構造的な話とは全然違うところから洋服にタッチをしながら、それをやり続けていることが好きなだけ。あとは、商売の中でなるべく手を触れ過ぎないこと。ハンバーグを作る時、手の温度が移らないように両手で肉をパカパカやるでしょ? あの感じがいい!(笑)あとは、老舗人たちみんなに共通する、どこか淡々とした感じの醸し出し方には憧れるんだよね、淡々と毎年ね。淡々としてたいものだから、今や店の周年の行事すらもう何年もやってない(笑)。

――渋谷の道玄坂にあるようなチェーン系のラーメン屋も“昭和二十何年創業”とか書いてありますね。

まいっちゃうよねぇ(苦笑)。もっと困るのは、ラーメン屋で作務衣っぽいの着て、主人の哲学みたいなものが一発書いてあるような店!哲学はいいから、さっさと食わしてくれー! みたいな(笑)。

一同「(笑)」

――あと“一生懸命営業中”みたいな既に出来上がっていた感じのキャッチとか(笑)。

テキトーな? テキトーが? コミュニケーション!?(笑)。アジテーションみたいなもんは別にいいから、静かに食べさせて頂戴っ!て(笑)。

――そうかと思うと、最近とあるスナックで、会計しようとしたらフレームに入った写真が飾ってあったんですね。そこには明らかに店主の若い頃と分かる顔と、もうひとりおじさんが写っていたんです。しかもどう見てもその筋の人が(笑)。だから「これ、ご主人じゃないですよね?」と訊いたら、「すごくお世話になっている方で」って(笑)。

チャームだ。きっと店のチャームなんだよ(笑)。

――入口の一番いいところにそのツーショットが貼ってあって。「お世話になった方」という言い方もなんかグッときました(笑)。

いいよね。堤防に一穴空いている感じというか。そこからその向こうの景色だって見えてくるかもしれない(笑)。

 

感情的にグッとこなければ選ばない。

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――“……Research”は“Mountain Research”や“Horse Blanket Research”などテーマがありますが、どういう感じで決めているんですか?

枕詞みたいな大きな方向という感じかな。まあ言い訳っちゃ言い訳なんだけど(笑)。

――屁理屈ってことですね?

そうそう、まさにそう!(笑)

――それぞれに追求するポイントは設けているんですか?

マウンテンリサーチなら“日本の山”がテーマというぐらいかな。外国の景色を見ているわけではなくて、信州の景色の中で全部を賄っているという感じだよ。

――なるほど。

例えば初めて山に行く人が、仮にハイキングから始めてキャンプをやるまでくらいまでのところとして、うちの商品が何らか引っかかった時、ちょっと人に自慢しながら使ってくれて、のちのちハイキングを克服してさ、また新たなモノと出会ってくれたらといいなあと思っているよ。

――アウトドアギアとタウンカジュアルとの線引きみたいなものは考えていますか?

どちらかに寄せようという考え方はない。だって山に登るんだったらマウンテンパーカーみたいな防水のやつは便利だけど、街なら別にあれじゃなくてもいいわけでしょ。俺は山に登りたいわけじゃなくて、自分の好きな場所で、好きな洋服を着ていたいだけ。その程度の装備でも居られる場所で、かつギリギリ山のところに居たいというだけ。登らなくても楽しいし、薪火をしに行くだけでもいい。気に入った岩に座って、そこから見える景色が自分の定位置だということにして、好きなだけそこに座ってたっていいんだしね。

――現在は東京と長野を行き来されているんですよね?

今年の12月で土地を手に入れて丸10年かな。朝起きて散歩に出ると、レタス畑の人が袋にふた玉入れて置いといてくれたりする。

――いいですね。

朝積まれたレタスをもらえるまでに10年かかった(笑)。受け入れてもらったっていうか。思い返してみると、自分たちが村に持ち込んだ?持ち込んでしまった?異物感がとれるまでに10年かかったっていうことなんだね。

――エコについて何か思うことは?

まったくない。考えたこともない。

――僕もふたつ選択肢があった時に大した差じゃなかったらエコのほうを選ぶとは思うんですけど。でも車でハイブリッドは選ばないんですよね。

俺もそうだよ。結局はカッコイイとか感情的にグッとくるポイントがなかったら、そっちのほうは選ばないんだよね。オーガニック(コットン)を使っているといったって、別にうちのTシャツの規模の枚数でオーガニックが使われようが、世の中には何の変化もないだろうから……。もちろんパタゴニアの規模なら話は別だし、本当に変えたいのならユニクロあたりの規模が全部オーガニックに切り替えてくれないと、世の中なんて変わっていかないと思うよ。

――さらに車で言えば、いまアメリカは原油が安くなったからガソリン車がばんばん売れているらしくて。つまり別にみんなエコ第一だったわけじゃじゃなかったんだなって。

要は日本の話とアメリカを同じように括って話すこと自体が間違っているんだよね。だって向こうはシェールガスまで掘って、今や産油国なわけでしょう? あっちとこっちじゃ全然違う状況だよね。

――そうですよね。3.11の震災の後、電気をどうするのという話になったじゃないですか。蓄電がどうだとかいろんな話をしたけれど、でも結局はあまり話が進まなかったし、いまでは節電の話そのものがあまりされなくなっちゃった。

そうだね。山って都市とは隔絶されているから、電気を使いたかったら生むしかない。昼も夜も一年通して電気を運用するためには、例えば太陽電池パネルをどのぐらいの大きさにしなきゃいけないとか、充電するんだったらどのぐらいのパックが必要かとか考えなきゃならないんだ。

――いま電気はどうされているんですか?

太陽電池で作っている。ほんとは売電せずに蓄電したかったんだけど、今は蓄電池がまだまだ高価なんだな。

――ちなみに山での電気の使い道は?

灯りとIHぐらいかな。ガスはカセットコンロを持ち込み。プロパンは置かないと最初から決めていたから。お湯は薪で沸かしている。

――じゃああまり電気は必要ない? ランタンじゃダメなんですか?

俺さあ、山の暮らしで暗い感じなの、イヤなんだよ(笑)。
チマチマした光とかダメなんだよ。ドカーンと明るいほうがいい(笑)。トイレとかは人感センサーを付けてあるから、こちらが動けば灯りが点くようにしてるしね。

――熊とか出たりはしないんですか?

出る場所ではあるんだけど、一応は敷地内に木の杭を巡らせたから、この何年かは大丈夫かな。でもいつだったか、1×2mのメッシュの針金を4枚つけてあった木の杭の切れ目のところに、多分俺ぐらいの身長のものが何度もぶつかったように変形していたことがあったね。もうびっくりしちゃってさ、すぐに大工さんを呼んで「一体これ何が当たったんですか?」って一応訊いたんだけど、誰も怖いから言わないんだよ! 熊って(笑)。

――(笑)。

あと動物絡みの話だと、さっき話したレタス畑に犬を連れて散歩に出たら、鹿の死骸が転がっていたこともあった。それもおそらく撃たれたばかりという感じのが。

――あれはやっぱり死んだフリをしたほうがいいんですか?

熊のこと?ダメダメ。目を合わさず、尚且つ背中を絶対に見せないようにしながら、ゆっくり普通に動く。で、絶対に後ろを向いたり走ったりしちゃダメ……らしい(笑)。アイコンタクトしちゃったら、絶対来るの。目があって、何らかの感情が湧いてくれるのは犬だけらしいよ。
他の獣はアイコンタクトした瞬間にガーッて襲ってくるんだって。まあ一度遊びにおいでよ(笑)。

(プロフィール)

小林節正……1961年生まれ。SEtt代表/……Research主宰。2006年、約12年に及んだ“General Research”を終了させ、“……Research”を始動、ひとつのテーマに深くフォーカスを絞り込む活動スタイルへと移行した。山、あるいは山の暮らしを題材にする“Mountain Research”を軸に、様々なリサーチを展開しながら活動を続けている。

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