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2017.11.03 COFFEE PEOPLE ~ Vol.22 佐久間裕美子 × 辻直子 ~ 後編

毎月、各界のゲストとコーヒーを入り口に様々なトークを繰り広げていくCOFFEE PEOPLE。第22回目はライターの佐久間裕美子さんとスタイリストの辻直子さんの登場です。佐久間さんは今年の6月に新刊「ピンヒールははかない」を上梓。約20年に渡るニューヨーク生活をベースに、自立した女性の心情を軽やかな筆致で綴った内容が好評を博しています。また二度目の登場となる辻さんは、このCOFFEE PEOPLEの記念すべき第一回を飾っていただいた人気スタイリスト。大の仲良しというお二人をお迎えして、前回は互いの相違点やアメリカについての話題などを大いに語り合っていただきました。今回お届する後編ではお二人が現在の仕事を選んだ経緯や、究極の共通点について語り合います。ぜひお楽しみください。

(聞き手:鳥羽伸博(TORIBA COFFEE代表)。写真:石毛倫太郎。構成:内田正樹)

 

ジェリー・ガルシアとブルース・スプリングスティーン

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——僕はスペインのマドリードを訪れた時に闘牛を観に行ったんだけど、結局は闘牛が好きというよりも、あのマタドールの衣装とかが好きなわけ。コーヒーもコーヒー自体はもちろん嫌いじゃないんだけど、コーヒーにまつわる何かが好きなんです。例えば『コーヒー&シガレッツ』という映画に出ているトム・ウェイツとか。

佐久間:私、コーヒーのおかげでタバコをやめられないような気がするもん。

——僕は吸わないけれど、やっぱりコーヒーとタバコっていいですか?

佐久間:合うよね。

辻:うん。コーヒーは合うね。

佐久間:逆に紅茶を飲みながらタバコを吸うと、自分がすごく悪い人間になったような気がする。

辻:分かる。入ってはいけない境界線みたいな。

佐久間:そうそう、すいませんタバコなんて吸って、みたいな(笑)。

——コーヒーは不良の飲み物の代表格のレッスン2ぐらいには出てくるもんね。

佐久間:そうそう(笑)。うちもコーヒーだけは中学生ぐらいから飲ませてくれたんだよね。私、最近お茶にちょっと目覚めたんだけどさ、そのきっかけが烏龍茶だったわけ。ブルーピープルという名の烏龍茶で、後で聞いたら烏龍茶ってコーヒー派の人がお茶に目覚めるきっかけとしてすごい多いらしいくて。で、烏龍茶はタバコ吸いながら」

——ラプサン・スーチョン(正山小種)・ティーって知っていますか? 茶葉を松葉で燻したやつ。ものすごいスモーキーで正露丸みたいな味がするんだけど、多分タバコに合うんじゃないかと思う。

佐久間:知らなかった。そういうのもいいなあ。

辻:私も昔は紅茶が大好きだった。20代前半ぐらいは紅茶派だった。その頃はあんまりコーヒー好きじゃなかったな。

——辻さんはこのコーナーの第一回にもお越しいただきましたが、たしかお父さんはコーヒー飲まれるんですよね。

辻:うん、飲んでる。お父さんがコーヒーを飲んでいる姿はすごく好き。お母さんも飲むし。

佐久間:お父さんのことをこんなに真っ直ぐ好きって言える人って何かいいよねえ。

辻:私、うちのお父さんみたいな男性とは結婚とか無理だなあって常々思うけど(笑)、男としては結構好きなの。お母さんによくチューとかしていたし、車に乗ると助手席のお母さんといつも手を繋いでいたし。で、赤信号で停まるとチューとかしていて。私と姉にもたまらなくしてくるし。

佐久間:めっちゃ素敵じゃん!

辻:だから多分私にもそういうところがあるんだと思う(笑)。でも、それ以外の男としての部分が好き。

佐久間:すごくいいねえ。何歳の時にスタイリストになろうと思ったの?

辻:高校生ぐらいの時かな。思い立ったら進学するつもりなんか全くなくてただスタイリストにだけなりたかった。たまたまその当時、小さい頃から知っていたすごく年上の広告カメラマンさんがいて、その人が私に会うといつも『お前スタイリストになればいいのに』って言ってくれていたの。

佐久間:じゃあオシャレな子供だったのね。

辻:誰にも言っていなかったのに見透かされたみたいですごく恥ずかしかった(笑)。でもその当時はスタイリストになれないなら一生働きたくないとまで思っていた。

佐久間:極端な性格(笑)。

辻:アシスタントの時も寝られなかったし、怒られもしたしいろいろあったけど、やっぱりすごく楽しいなっていつも思ってた。だからさっき(前編)の後悔云々の話もそうだけど、その選択が正解かどうかなんて分からないんだけど、選んできた道はよかったっていつも思っているし、それが成功しても失敗に終わっても、選びたいことを選ぶようにはしているから。

――佐久間さんはどうしてライターの道に?

佐久間:それしか出来ることを思いつかなかったというか消去法というか。私ね、昔から自分が社会に出て何かできるっていう気が全くしなかったの。すっごいダメ人間だったから(笑)。でも普通に大学行ったら、超氷河期っていう言葉が出来た年とかで。そんな何千人に何人みたいな話でジャッジされても、無理だなと思っていたし(笑)。一生懸命勉強して政治学科受かったのに、入ってみたらみんなテニスとかサークルやっていて「え? みんなこれやりたくて勉強していたの?」とか思って。しかも学校で5月に飛び降り自殺を見ちゃったりして、五月病みたいになっちゃって、1年間単位とれるギリギリくらいしか学校行かなかったの。で、2年になって初めて学校行ったら短期留学希望者募集の告知を見つけて、それに受かっちゃったの。で、スタンフォード大学に短期留学。その時、グレイトフル・デッドのライブを観て「アメリカに住もう」と思って。そのためにはどうしたらいいかを画策して、大学院に行って学者になるっていうことにしようって思い立ったの。

——まずデッドであり、アメリカが先だったんだ? 

佐久間:そうそう。北カリフォルニアで観たの。あの自由な感じに憧れて93年だったね。

——デッドのライブはそれから何度も行った?

佐久間:ジェリー・ガルシアは95年に観たけど、ガルシアが生きていた頃のデッドを観たのはその1回だけだった。

——ブルース・スプリングスティーンは?

佐久間:観たことない。

——「ピンヒールははかない」にBorn To Run(ボーン・トゥ・ラン)っていう行があるでしょ。 

佐久間:あ、“どこまでも走り続けたい”っていうやつでしょ?

——そう。僕はブルース・スプリングスティーン(※彼のアルバムと表題曲にBorn To Run(邦題:「明日なき暴走」)がある)がすごく好きなんだけど、スプリングスティーンが好きなんじゃなくて、彼のバンドでサックスを吹いているクラレンス・クレモンズっていう黒人のプレイヤーとブルースの友情が好きなんだっていうことに最近気付いたんです。音楽も大好きだけれど、それ以上にあの二人の表情に惹かれているんだなって。 

辻:ブルース・スプリングスティーンってブルーカラー代表でしょ? 鳥羽君がそんなに好きなのはちょっと意外。

——僕、ニール・ヤングとブルース・スプリングスティーンはどうしても譲れないんです。原点だし、やっぱり憧れる。あそこまで叫べるってすごいことだと思うんですよ。この対談にはいつも表現している人たちの気持ちを知りたいというテーマがあるんだけど “ボーン・トゥ・ラン!”みたいな叫び方って、自分が言ってきていないことだと感じるんですよ。何か『アイ・ワズ・ボーン・トゥ・ラヴ・ユー』(※クイーンの「ボーン・トゥ・ラブ・ユー」の一節)とかって、僕はしっくりこないんです。 

佐久間:はいはい、何をする為に生まれてきた、みたいなやつね。

——そうそう。「はあ?」みたくなっちゃう。でも『ボーン・トゥ・ラン』って言われると『イエス! ミー・トゥ!!』と言える(笑)。 

一同:(笑)。

——今度一緒にスプリングスティーンのライブに行かない?

佐久間:いいよ。まあ私は走らないけどね(笑)。

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普通の社会人になれなかった私たち

——デッドを観た裕美子ちゃんは一度日本に戻るんですよね?

佐久間:うん。これは本にも書いたんだけど、大学の教授に『先生は何で先生になったんですか?』って訊いたら『僕は自由人になりたかったから。自由人は通勤電車に乗らない。乗らないのが自由人。通勤定期を持たないでイオカードを持つのが自由人だ』って言ってて。それやる!と思って(笑)。

一同:(笑)。

佐久間:でも教授も『アメリカ行きなよ。日本社会には君の居場所はないかもしれないし』と応援してくれて。で、アメリカに行ったの。でも実際に本気で学者になろうと思っている人たちの中に混ざったら、もう私なんて頭脳も気合いも足りなすぎる、全然ダメだって気が付いて。それでも生きていくのに何が出来るか考えた時に、文章を書くぐらいしか特技がなかったから。私、中学の時に音楽雑誌を一人で作ったの。誰も見てないけど(笑)。

——へぇ~!?

佐久間:おばちゃんが紙工場にコネがあって、わら半紙をわーってもらって、それでひとりで切って。絵とか自分で描いて、いろんな外タレの話を書いて。

——その頃、学校ではどんな生徒だったの?

佐久間:ずっと寝てるの(笑)。行ったらすぐ寝る。で、夜中に親が寝てから活動していた。本を読むとか映画を観るとか、こっそり。あとエロい番組あったじゃん? 『11PM』とか。そうすると夜ずっと起きてるわけ。でも7時には起きて中学に行かなきゃならないから、行っても寝ているだけ。給食の間もずっと寝ていて、お掃除の時間に起きて帰るっていう。手がつけられなかった(笑)。

——友達は?

佐久間:いたけど変なお嬢様学校みたいなところに入っちゃったんで、今でも仲良しの友達は一人しかいない。私が音楽雑誌を作っていた時、その子はエロ小説を書いていたの。

辻:気が合ったんだね(笑)。

佐久間:ね(笑)。その子も何の経験もないのにエロ小説とか書いて、大人になったら編集者になりました。学校では寝ていたけど、好奇心は旺盛で新聞もすごく読んでいたから、報道だったら何か出来るかもと思って、東京にあった海外の報道機関に電話してインターンしたいんですって言って履歴書をFAXで送ってみたの。そしたらBBCの東京支局から来てもいって言われて。それが大学院の1年目だから23歳の頃かな。そこでしばらく日本にいたジュリエット・ヒンデルさんっていう特派員の元でインターンをして。これは楽しいと思っていたら、ひとつ富士山のゴミ問題を自分のプロジェクトとして任せてもらえたの。でも最後に踏み絵みたいな場面があって、富士山へ取材に行く日、ベックのアテンドというおいしい話があって(笑)。ボスにそっちへ行ってもいいよと言われて、うぅ~!となったけど、『富士山行きます!』と言って。でも雨とかすごく降ってひいひい言いながら登ったのに、編集されてテレビに映る尺は1分20秒とかなわけよ。それでこんなコストパフォーマンス悪くて一人で出来ない仕事はダメだなあと思って、今度は新聞社で記者助手みたいなのをやって。でも入った日に辞めたいと思った。

——何で?

佐久間:男社会だったし、この娘に何が出来る?みたいな感じだったから。でも1年間鍛えてもらったと思う。最後はアメリカの通信社で働いたんだけど、結局のところ会社が苦手なんだと分かってね(笑)。しかも途中で9.11が起きちゃったから、すごく忙しくなって、その過程で価値観も変わって、やっぱり独立したいなあと。そしたら会社の都合で部署自体がなくなることになって、退職金もくれたからそこからフリーランスになったの。それが2003年かな。

辻:私もまず普通の社会人にはなれないなあと思っていた。かなりちっちゃい頃から。多分適合性がなかったし、電車にも毎日乗りたくなかったの。これを話すとみんな笑うけど「何もしないでどう人生を生きるか」という計画をずっと本気で考えていたくらいだったから(笑)。

佐久間:何かみんなすごくしんどそうに見えたよねえ、昔の大人たちってさ。

——辻さんがスタイリストになったのは何歳から?

辻:弟子入りしたのが20歳の頃。ある意味五月病だったんじゃないかと思うんだよね。もう人生の絶望感を勝手に味わっていた感じ。あんなにGOLDが好きだったのに身体も気持ちもショートしたみたいになって。

佐久間:私も五月病になった頃、みんなはGOLDとか行ってたなあ。で、『GOLD行こうよ?』と電話がかかってきても『いや私ちょっとファイナルファンタジーで忙しいんでいいです』って(笑)。

辻:私は毎日のように行ってた頃もあったな。音楽が大好きでああいう場所に行って友達と踊るのが好きだったの。でもある時、急に自分のちっぽけな輪郭が見えてきて耐えられなくなってそのある意味五月病になったんだと思う。

佐久間:何か分かるよその気持ち。

辻:それで、そのままだとダメだなと思って。ロンドンに長く行く予定もあったんだけど、その当時の私がこのまま行っちゃったら、きっと帰ってきてもスタイリストのアシスタントをスムーズにできなくなるなって思って、今だったら「ごめんなさい」も素直に言えるし、寝ずに働く的なアシスタントになっても大丈夫だと思ったから。そんな中、お父さんから手紙が届いたの。離れていても私の変化をすぐ察知するの。3、4行しか書いてない手紙だった、でもその中にすべてが詰まっていたの。ほんと読んだとき嬉しくて嬉しくて。そこからショートしたものにスイッチが入り始めたんだ。

佐久間:すごいね、お父さんパワー!

辻:もうあんな精神状態には二度と戻りたくない。

佐久間:イヤだよね。分かるよ。私もそうだもん。結局さあ、天職っていうのは“他のことが出来ない”ということだと思うるんだよね、私は。

辻:そうかも。時々頭を過ぎるの。他のこと出来るかなって。でもいろいろと照らし合わせてみても、どれも出来る自信が100パーセントない(笑)。

——何か他に得意なことって……?

辻:ない。

——食い気味に即答ですね。趣味も?

辻:ない。まあ育ちが千葉の海っ子なんでボディボードは少し出来るけど。

——僕は最近になってバイクに乗り始めて、この前はアトランタでセグウェイに乗ってみようとか思って……まあセグウェイは派手に転んだんですけど……ともかくアクティブになってきて。それは多分身体が求めているんだと思っていて。僕、19歳の頃にロンドンにいたんだから、本来ならばバイクはその辺りで凝っていてもおかしくなかったのに。でも40になった今なんですよ。

佐久間:タイミングなのかな。私も中学ぐらいまでスキーを一生懸命やっていたけど、それを超えたら「寒い」としか思えなくなっちゃったし(笑)。多分何でスキーが好きだったかっていったら、単なるスリルだったと思う。生身であんなにスピード出ることなんて、普通に生きていたらまずないから。刺激ジャンキーね。

——最近は何か求める刺激ってないの? バンジージャンプとかは?

佐久間:あ、やったことはある。嫌いじゃなかったけど、高いところはそんなに好きじゃないから(笑)。でも恐怖感を克服するっていうのはいいよね。私、マチュピチュに行って高所恐怖症だって気がついたから(笑)。

——この前ガウディのサグラダ・ファミリアにエレベーターで登って、階段で降りる時に、ああ腰が抜けるというのはこういうことなんだと初めて分かった(笑)。

佐久間:降りるのが一番怖いよねえ。

辻:私はどっちも絶対にイヤ。どちらかと言えば閉所恐怖症だけど。

佐久間:あ、閉所もイヤだよねえ。

辻:絶対怖い! もう想像しただけで怖い!

——何だか今日の会話ってどこかちょっと中二病っぽいというか。

辻:中二病? 私ってそうなの?

佐久間:鳥羽君は中二病だね。直ちゃんも中二病か。私は確実に中二病だしね。

辻:でも私は多分、普段は自分の中二病をあまり人には見せていないと思うんだけど。

——でも同じ匂いは感じるよね。

辻:そっか。だから中二病同士、お互いに気持ちが分かるのかな?

佐久間:仲良くなれる人っていうことはだいたいみんな中二病なんだね!(笑)。

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(プロフィール)

さくま・ゆみこ……1973年生まれ。東京育ち。慶應大学卒業後、イェール大学大学院で修士号を取得。1998年から二ューヨークに在住し、新聞社、出版社、通信社勤務を経て、2003年に独立。2012年、インディペンデントのメディア『PERISCOPE』を友人たちのグループと立ち上げる。これまで、アル·ゴア元副大統領からウディ·アレン、ショーン·ペンまで、多数の有名人や知識人にインタビューしてきた。『BRUTUS』『& Premium』『VOGUE JAPAN』『GQ』など数多くの雑誌に寄稿する。翻訳書に『世界を動かすプレゼン力』、『テロリストの息子』、著書に『ヒップな生活革命』(朝日出版社刊)、今年上梓した新刊に『ピンヒールははかない』(幻冬舎刊)がある。現在、ブルックリンのグリーンポイント在住。

http://www.yumikosakuma.com

 

つじ・なおこ……モダンかつ上品でフェミニンなセンスを持つ人気スタイリスト。BAILA、Marisol、otona MUSEなど数々の女性誌や女優のスタイリング、CM、ブランドのディレクションなどで活躍中。近著は雑誌BAILAの連載をまとめた『「6割コンサバ」の作り方』(集英社刊)。

 

 

 

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